ナツは緊張した面持ちで、身構えるように座り直した。

「え…?」
「ほら、ルーシィの番だぞ」
「な、え?」
「イタズラ」
「い……イタズラって、今のが?」

ナツは無言で頷いた。理解した途端、ルーシィの頬に火が点く。
こんなの。

かこつけて抱き締めたかったとしか、思えない。

ナツは確かにスキンシップが過剰だが、あくまで仲間のそれ――だと、ルーシィは思っていた。だからこそ、必要以上に意識することはなかった。それなのに。

いったい、いつから、そんな風に。

心臓が混乱して、ルーシィの外へ飛び出していきそうだった。ぎゅ、と押さえて、気を落ち着ける。

「な、なんで、こんな…?」
「なんでって…そんなん訊くか?」

ナツは目を泳がせて、小さく答えた。

「別に…いつか、やろうと思ってたんだよ」

頭が熱でどうにかなってしまいそうだった。ぐらぐらと沸き立つルーシィに、ナツが促してくる。

「しねえの?イタズラ」
「え」

ルーシィは咄嗟にナツの腕の位置を確認した。充分に胸に飛び込めるスペースがあることを見定めてから、ぶんぶん、と頭を振る。

「で、できるわけないでしょ!?」

飛び込んで来いと言われたわけではないが、ナツの口から出る『イタズラ』がルーシィにそれしか考えさせなくなっていた。想像するだけで、恋愛経験のないルーシィは蒸発しそうになる。
しかし拒否したものの沈黙が落ちた気がして、彼女は慌てて言い重ねた。

「こ、ここじゃ恥ずかしいしっ…あ、えとっ、ま、また、次の機会に……?」

え、何?あたし何言ってんのー!?

オーバーヒート寸前の彼女に、ナツが目を見開いた。

「うえ、いつ来るかわかんねえのか。気ぃ抜けねえな」
「あああ、あたしっ、飲み物追加してくるっ!」

逃げるように、ルーシィは席を立った。心臓が今まで感じたことのないスピードで、血液を全身に送り続けている。呼吸する隙すら満足に与えてくれず、酸素が足りない。
よろよろとカウンターに到着して両手を突くと、ハッピーがくふ、と笑った。

「ナツにやられたの?」
「み、見てたのっ!?」

ハッピーはルーシィの反応に首を傾げて見せた。ひょい、と彼女の後ろを指差す。

「背中」

言われるまま手を回すと、何かに触れた。

「……」

ぺらりとした感触――紙。

すとん、と胸の内で何かが落ちたように感じる。ルーシィはそれを剥がして、ぐしゃりと手で潰した。

「そぉ…これを付けるためだったの…」

なんという古典的な。
ドキドキした全てがこんなもののせいだったとわかって、ルーシィは落胆するより怒りが湧いてきた。ふふふ、と笑い出した彼女を、ハッピーが心配そうに見上げる。
ルーシィはぎり、と奥歯を噛み締めてから、赴くままに爆発した。

「ナツー!覚悟しなさい!」
「うぉ!?もう見たのか!?」

ルーシィの叫びに、ナツがびくりと肩を跳ねさせる。身を守るものを探したか、おたおたと辺りを見回してから、出口に向かって走り出した。

「逃げるな!」

ルーシィはナツの背中を追って床を蹴った。握り潰したままの紙を勢い良く丸めると、その辺に放り投げる。

「待ちなさい!」
「やなこった!」
「あたしもイタズラしていいんでしょ!?」
「イタズラは暴力じゃねえ!」
「暴力なんてしないわよ!さっきのお仕置きはするけど!」
「それは絶対暴力だろ!?」

マフラーを靡かせて逃げるナツは、ギルドの外に出ても止まる様子が無かった。時折振り返ってこちらを確認しては、怯えるような、それでも楽しげな瞳を向けてくる。
それはとても日常的で、普段通りで――自分達らしい。ルーシィは安堵する自分に気付いていた。
しかし。

少しだけ。ほんの少しだけ。

――…ううん。

「残念なんて、思ってないんだからね!」
「はあ!?何言ってんだ!?」

ルーシィはいつしかくすくすと笑いながら、それでも全力でナツを追いかけていた。






ゆっくり、じっくり。二人のペースで。
お付き合いありがとうございます!


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