掻き混ぜた卵がフライパンの上でじゅわりと音を立てる。
ルーシィはそれが半熟の頃合を見計らって、既に出来上がっていたチキンライスを乗せた。フライ返しで端を剥がす。
ナツとハッピーが息を詰めた。
「いよいよだぞ」
「あい。きっとこっちに飛んでくるよ」
「飛ばさないってば」
身構える二人に唇を噛みつつ、ルーシィは手元に集中した。
――いける。
くい、と手首を使って、ひっくり返す。
「んっ」
「おおっ」
「あれー?綺麗…」
「ふっふーん!だから言ったでしょ!」
使い込まれたフライパンだからだろうか、思った以上に上手くいった。焼き目のない美しい仕上がりに満足して、皿に滑らせる。
「ほら、出来上がり!」
「すっげえ!美味そう!」
「うまそー!」
さっきまでの貶し具合が嘘のように、二人は目を輝かせた。謝ってもらおう、と思っていたことを忘れて、ルーシィはにこりと微笑む。
出来上がったばかりのオムライスは、ほこほこと湯気を立てていた。
それはナツの一言が発端だった。
『ルーシィは料理出来ねえだろ』
ミラジェーンの作ってくれたファイアパスタを空にして、意地悪げに歪められた口元。
不法侵入の折、たまに出してやる料理の数々は一体誰が作ったと思っているのか――それを言えば、今度はハッピーがにやりと笑った。
『カレーかシチューばっかりだよね』
美味しいけど、と付け足してはくれたものの、小馬鹿にしたようにルーシィを見る。
『それはあんたらのせいで食費が厳しいからよっ!』
煮込み料理は金欠の友達だ。ただでさえナツはよく食べる。嵩増しできる料理がメインになるのは必然だった。
『ふうん?』
『きぃーっ!その顔ムカつくわねっ!』
『じゃあさ、こうしようぜ』
ナツはポケットから紙幣を一枚取り出した。
『これでオレが注文すっから、それをお前が作ってくれよ』
『炎の料理なんて作れないわよ。てか今食べたばっかりでしょ』
『食べ足りねえもん。普通ので良いし。つかオレ、別に火ばっか食ってるわけじゃねえだろ』
『でも、ギルドでそんな勝手に』
『調理場使うの?良いわよ、ルーシィ』
『ほら、ミラ公認だ』
『えー』
『自信ねえの?やっぱ出来ねえんだろ』
『出来るわよっ!やってやろうじゃない!』
ばしん、とカウンターを叩いて、ルーシィは立ち上がった。ミラジェーンが手渡してくれたエプロンを身に着け、カウンターでにやにや笑うナツとハッピーを振り返る。
『で、何が食べたいのよ?』
『そーだなー。なあミラ、難しいのって何?』
『腕が試されるっていうなら、オムライスとかどうかしら』
『お、いいな。じゃあそれで。出来るか、ルーシィ?』
『出来るに決まってんでしょ!』
かくして。
完璧なまでに課題を作り上げたルーシィは、皿をくるりと回してナツの目の前に置いた。