あくびするカミサマ





ギルドで調べ物をしていて、すっかり時間を忘れてしまった。
星々が彩る空を見上げて、ルーシィは一度強く瞼を閉じた。活字ばかり追い続けていた目が、じわりと痛みを訴える。

「帰ってお風呂入って……小説の続きは明日にしよ」

誰も居ない空間に呟くと、吸い込まれるように言葉が消えた。等間隔に並んだ街灯が、静けさに拍車をかける。
アパートまではまだしばらく歩く。人通りの無い道に寒気を覚えて、鍵に手を触れた。
しかし――今からプルーを喚び出しても、すぐに閉門することになる。
どうしよう、と迷うルーシィの耳に、ばたばたと忙しない足音が聞こえた。

「おーい、ルーシィ!」
「ナツ?」

夜だというのにはた迷惑な程エネルギッシュに声を上げ、桜髪の滅竜魔導士が駆けてくる。
ナツはルーシィの前まで来て、やや乱れたマフラーを片手で直した。

「送ってく」
「え?なんで?」
「最近物騒なんだってよ、ミラが言ってた。今日はプルー居なかっただろ」

当然のように言ってのけ、ナツはルーシィの家に向かって歩き出した。
その迷いのない背中に、彼女はこっそりと微笑む。
ルーシィは普段、夜道はプルーと帰る。ナツがそのことにも、今日はプルーを召喚していないことにも気付いていたとは。
自分勝手で自由で迷惑。けれども、決して他人を見ていないわけではない。
時折見せる気遣いも、紛れもなく彼の内面だった。

「ん?」

視線に気付いたナツが振り返る。ルーシィは軽く頭を振って、居るはずの小さな影がないことに気付いた。

「あれ、ハッピーは?」
「先に帰ってるってよ」

「一緒に来れば良いのになあ」不思議そうに言って、ナツは両手を頭の上で組んだ。

「なんか珍しいわね。ハッピーと一緒に、うちに上がってくー!って騒ぐかと思ったのに」
「騒がねえよ」
「どうだか」
「もっと冷静にだな」
「上がってくってとこを否定して欲しいんだけど」

並んでみると、ナツの足取りは妙に浮かれていた。ふふふん、と鼻歌のようなものまで聞こえる。

「なんか機嫌良いわね」
「へっへっへ」

よくぞ訊いてくれました、とでも言うように、ルーシィに向かってにやりと笑う。

(これはろくなことを言わない顔ね)

半眼になった彼女を前に、ナツは自信たっぷりに胸を張った。

「崇めろ。ぐもっ!?」
「何かあったの?」
「ちょ、殴っておいて何事もなかったように進めんなよ!」
「加減したでしょ」
「うーわ、お前、もうエルザと大差ないぞ」

ナツは頭をさすりながらぶつぶつと口を尖らせた。






君と二人で帰る道


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