なんていってないた






美味いモン食うと、嬉しそうに笑う。
中身のない話にも、面白そうに大口開ける。
からかえば全力で応えてくれて。
手を引けばどこにだってついてきて。
喚いて怒って、それでも笑顔を見せてくれる。
ルーシィは気持ちが素直に顔に出て、くるくる表情が変わる。どんなルーシィだってルーシィで、一緒に生きているんだって思えて楽しい。
でも、泣いてるのだけは気に入らねえ。
ルーシィの涙なんて、見るのもイヤだ。


何の話をしてたんだったか。

確か、ここ――ルーシィの部屋に、オレ専用の物が増えてきた、という話だったはずだ。コップ、フォーク、歯ブラシ、毛布。この前、枕代わりのクッションを買ってきた。
ソファで寝るのも快適でしょ、なんて笑うから、オレはベッドで寝るんだって言ってやったんだ。予想通り文句を言うルーシィに、『お前も一緒にベッドで寝れば良いだろ』って返した――そう、そうだった。

で、なんで、ルーシィはこんな顔してんだ。そんな真面目な話じゃねえだろ?
怒ったように見えるほど、真剣な目。それに似合う声で、ルーシィははっきりと言った。

「あんたにとって、あたしって、何?」
「仲間だろ?」

いきなり何を言い出すんだ。
オレにとってだろうが、ハッピーにとってだろうが、ルーシィは仲間。大切な仲間。そんな当たり前のこと、なんで今このタイミングで、そんな顔で訊いてくんだよ。

「どうしたんだよ?オレは、オレらは、ルーシィのこと仲間だと思ってるし、お前だってそうだろ?」

ルーシィが俯いた。小さく唇を噛んだのだけが見える。

「違う」
「え?」
「あたしは、ナツのこと、ただの仲間とは思ってない」

なんだそれ、と言う間もなく、ぽた、と雨音――じゃ、ない。ルーシィの紋章に。
て、おい。まさか。

――泣いてる!?

「ちょ、待て!」

慌てて、ルーシィのほっぺたに手を伸ばす。少しだけ冷たい濡れたそれを、両手でぐい、と強引に掬い上げた。

「や……」

ぽろぽろと、大きな瞳から透明な雫がこぼれてく。
ルーシィの涙なんて、見たくねえのに。

「なんだよ、なんで泣くんだよ?」

理由はわからない。仲間じゃない、なんてルーシィの本音とは思えねえし。つか、なんでそんなこと言うのかよりも、今は泣き止ませる方が先だ。
でも、オレは効果的な涙の止め方なんて知らねえ。格好悪いのはわかってるけど、どうしてもおろおろするだけになっちまう。
ルーシィはオレの手に片手を添えた。やめてくれって意味かもしれねえけど、放したくなんかねえから無視する。

「ルーシィ」

苛立ったような声が出ちまった。こんなはずじゃねえのに――ルーシィが泣いてるのが悪いんだ。
さっきまで笑ってたじゃねえか。
涙なんて見せてんじゃねえよ。
そんな顔したって、オレはどうしようもねえんだぞ。
そんな顔したって……。
……ん?

「ナツ」

寄せられた眉。逸らされない、真っ直ぐな視線。震える、肩。

え、なんか……でも、待ってくれ。
これって……カワイイ、の、か?

ルーシィは涙を隠すことも拭うこともしないで、オレを見つめたまま、

「好きなの…」

そう、言った。

「は……」
「あたし……ナツが…好きなの」

ひくっ、としゃくりあげるルーシィの、茶色っぽい瞳の中に、オレが居る。
ルーシィは相変わらず泣いたままで。
その涙は全然、止まってねえんだけど。
ルーシィの泣き顔なんて、見るのもイヤな、はずなんだけど。

んあ…やべー、カワイイ……!

涙にこんな効果があるなんて思ってもみなかった。良く見りゃ、濡れた目はキラキラしてキレイだし、鼻にかかった声もカワイイし。
その声で好きって……てか、言ったよな、好きって!ルーシィが、オレのこと!やべーって。カワイイって。有り得ないほどカワイイって!
早く泣き止め!にやにやしちまうだろ!

「お、おまえ、」
「好き、なの……」
「っ…」

ルーシィはオレにトドメを刺した。く、と喉が鳴く。
あんまりにもキレイで、カワイくて。
どうしようもなく惹き寄せられて、濡れた瞳を覗き込む。

宝石みてぇ、だ。

「オレ、」
「ナツは、あたしのこと、仲間なんだよね」
「へ……あ、ただの仲間と思ってないって、そういう意味か」

距離が近付いても、ルーシィはカワイかった。んな顔したら、オレ、抑えられねえよ。

「そういう意味ならもっとわかりやすく言えよ。いあ、言ったのか、言ったんだよな」

好きとかそういう風に、考えたことはなかったけど。
オレの身体の真ん中に、なんだかとても重要に思える場所に、ルーシィが居る。
それは、きっと。

「ルーシィ。オレ、ルーシィのこと、仲間だと思ってるけどそれだけじゃねえよ」

なんか、言葉ってもどかしいな。頭の中、ぐらぐらしててもうわけがわかんねえ。
つい、とまたほっぺたに新しい雫。それを指で堰き止めて。
身体が動くままに、オレを呼ぶルーシィの声を、飲み込んだ。


こんな泣き顔なら大歓迎だ。
でも、できれば、これっきりにしてくれ。

オレ、たぶん――ルーシィが好きすぎて、死んじまうから。






桜色」のかおりさまへ書かせていただきました。

初めはたにしのコメント返信簡単一言妄想だったはずなんですが、びっくりするぐらい完成度の高いイラストにしていただいたので、こちらも応戦してきちんと文章にしてみましたー!しかしなんという残念感……。どうしてだ。
笑顔のルーシィも呆れてるルーシィも怒ってるルーシィも大好きだけど、泣いてるルーシィだけは好きになれないナツが、泣きながら好きって言った彼女に萌えて撃沈する妄想でした。
いっぱいいっぱいなナツを表現するため一人称。…ナツに『頬』てなんかしっくりこないような気になって『ほっぺた』にしたけど可愛すぎた…!ルーシィよりあんたが可愛いんだよ、ナツ。




かおりさまのみお持ち帰りいただけます。
素敵なイラストに仕上げてくださってありがとうございます!



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