おえかきうた






「はい!」

ルーシィが笑顔で差し出してきた一枚の紙を受け取って、ナツは眉を下げた。

「ルーシィ、お前…」
「ナツが悪いんだよ、いっつも報酬減らされるから!」

相棒であるはずのハッピーにさえも詰られたが、ナツは反論せず目を逸らした。自分が悪い。
ここまで、ルーシィを追い詰めているとは思わなかった。

「悪ぃ…オレ、こんなにルーシィの金欠が極まってたとは思わなくて、調子乗ってた」
「ごめんね、ルーシィ!」

ハッピーは目尻に涙さえ浮かべている。
しかし、謝罪を受けた彼女はこめかみをひくりと痙攣させた。

「あんたら、なんか勘違いしてない?」
「え?だって、この絵で我慢しろってことだろ?」

紙にはクッキーの絵が描かれている。ナツ達がおやつは、と訊いたところこれを渡されたのだから、他の意味に取りようがない。

「ただの絵で食べたつもりになれ、とか…」
「あい。不憫だね、ルーシィ」
「くっ」

哀れみの目を受けた彼女は頬を染めて一歩後退ったが、思い直したように人差し指をナツに向けた。

「ただの絵なんかじゃないわよ、それは本当に満腹中枢を刺激するの!」
「はあ?」
「よく見なさいよ」

ルーシィはナツの手をぐい、と引き寄せて紙の端を摘まんだ。ぴん、と張られたそれをナツとハッピーに見えるように動かす。

「わかった?」
「んあ?だから、クッキーだろ……ん?」

ふわり――甘いバニラの香りが唐突にナツの鼻腔を擽った。眉間に皺を寄せてその出所を探ると、それは間違いなく目の前の紙からで。

「なんだこれ?」
「ふふーん、すごいでしょ!」

ルーシィは胸を張って、机の上にあった数本のペンを手に取った。

「描いた物の匂いを再現する魔法ペンよ!」
「……」
「何よ、その目?」
「いあ、結局のとこ、やっぱ絵で我慢しろってことじゃねえか」
「ナツ、ルーシィが悪いんじゃないよ。貧乏が…貧乏が悪いんだ」
「くっ…ち、違うわよ、本当はダイエットのためにというかなんというか」
「まあ…ほら、なんだ。良いことあるって」
「あい」

肩を優しく叩いてやると、彼女は今度はがくりと項垂れた。

「だってだって、いつもうちの食材食べ散らかすじゃない、あんた達」
「うん、ごめんな」
「あい、オイラ達ルーシィが大好きだから、つい調子に乗っちゃうんだよ」
「そうだぞ、ルーシィ。好…ああ、えと。とりあえず、悪かったな」

ナツはさらりと落ちた金髪を掬い上げるようにルーシィの耳にかけてやった。潤みがちな瞳がこちらを向くのを見て、ほっと胸を撫で下ろす。

「でも匂いだけって、余計腹減るな。なんかねえの?」
「あんた、あたしの話聞いてた!?」

ルーシィは苦虫を噛み潰したような顔をしたが、すぐに溜め息を吐いて仕方ないわね、と苦笑した。

「クッキー、あるわよ」
「お、本物か」
「これのモデル?」
「そうじゃないけど」

ハッピーが絵とルーシィを見比べた。

「知らなかった、ルーシィ絵上手なんだね」
「あ、ううん。それはリーダスに描いてもらったの。あたしも描いてみたんだけど、なんか薬みたいな匂いになっちゃって」
「うわー、ことごとく残念だね、ルーシィ」
「うっさい!」
「おいハッピー、可哀想だろ。こんな残念としか言えない状況でそれ言っちまったら、立ち直れねえぞ」
「ナツに気を遣われた!?」

ルーシィにとってはそれが一番ショックだったらしい。ふらふらとキッチンに向かったかと思うと、壁に向かってしくしくと蹲った。






バニラの香りでダイエット、てありましたよね


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