こころ





「あたしはナツなんてどうでも良い!」

つい、口が滑った。
だって、マカオが変なこと言うから。
『仲良い、なんてモンじゃないな。好きなんだろ?』なんて訊くから。
それを、ナツに訊くから。

そんなの、違うって言うに決まってるじゃない。
そんなの、聞きたくないに決まってるじゃない。

だから、本心なんかじゃない。先に否定して、傷付きたくなかっただけ。
マカオは笑って立ち去って、ナツとあたしの間には沈黙だけが残って。
ナツの反応を見たくないあたしは下を向いた。
そんなあたしに失望して、さっさとどっかへ行ってしまうだろうから。
その行く先が、どこかなんて知りたくないから。

――って。

「なんで隣座るの!?」
「どうでも良いって言ったじゃねぇか」

ナツは不機嫌そうに、あたしの真横で身体を揺らした。「狭い。もっとそっち詰めろ」なんて肩であたしを押しながら。
可愛くないあたしの口は、自分を傷付けながらナツに噛み付く。

「そ、そうよ!だから、なんで」
「どうでも良いなら側に居ても良いだろ」
「っ!?」

するり、右手がナツの体温に溶かされる。ううん、もう右半身、全部溶けてる。

「どうでも良いなら触っても良いし」
「ちょ、ちょっと」
「どうでも良いなら」
「!?」

ぐ、とナツがあたしを覗き込む。節ばった手が、伸びてきて。

もう――なにがなんだかわかんない!

考えることも出来ないあたしの左手は、ナツの顔を押しのけてた。

「何すんだ」
「あんたこそ、何しようとしたのよ!?」
「なんか付いてる、目の下」
「……あ、そ」

人差し指でナツの指すあたりを拭う。いっつもいっつも、こんなことばっかり。
ナツがまた手を伸ばしてきた。今度はそんな期待――ううん、勘違いしないんだから。
右手はまだ溶けている。なぜか真剣な目でほっぺたを撫でてくるナツを、あたしはさっきのお返しも含めて睨んでやった。

「…放してよ」
「嫌だ。だってどうでも良いんだろ」

少し。

ナツの手が震えた。
怒ったような目。だけど、わかるよ。寂しそうな、その色。
だからかな。あたしがちょっとだけ素直になれたのは。

「…どうでも良くないから」
「ホントか?」
「うん、ごめん。言い過ぎだった」

ナツの口が弧を描く。
そしてゆっくり、本当に嬉しそうに笑うから。
絡んだ指から鼓動が伝わってしまいそう。

ねえ、放して。

――あたしの心を。






どうでも良いなんて言うな。絶対言うな。


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