「ちょっと」
「なんだよ、見てるだけだろ」
「肩、重い。暑い。熱い」
「オレが暑苦しいみたいじゃねえか」
「その通りでしょ!」
「なんだよ!」
「食べないなら離れてよ!熱いってば!」
「夏は暑いもんだろが!」
「上手いこと言うな!」
「そんなつもりじゃねえ!」
グレイがのろのろと顔を上げた。
「おい、お前ら。何喧嘩してんだよ」
「うっさい!」「るせえ!」
「……なんかルーシィに怒鳴られるのって凹むんだよな」
「あい」
「あっちぃな、今日」
「あい」
グレイとハッピーがぶつぶつとテーブルに戻っていくのを横目で見て、ナツは口を尖らせた。
「なあ…オレのこと、嫌いか?」
「なんでそんな話になるのよ」
「……」
さくさくさく。カキ氷を崩す音だけが沈黙を彩った後、耐えられなかったのかルーシィがこっちをちらりと見た。
「嫌いなわけ、ないじゃない」
「じゃあそのカキ氷とオレ、どっちが良い?」
「……んん…」
「迷うなよ」
「カキ氷」
「迷ってなかったのかよ」
「冗談よ」
くす、と笑って、ルーシィはスプーンを持ち上げた。彼女の肩に顎を乗せていたナツの口に、ぴ、と差し出してくる。反射的に受け入れると、ルーシィは何も無くなったスプーンの背を唇に当てて、にやりと笑った。
「かかったわね」
「は?」
びく、と思わず身体が逃げる。ルーシィはくるり、とナツに向き直ると、べ、と舌を出した。
「ほら、見てー」
「おわ」
「見えないけど、すごい色でしょ?多分」
シロップの食紅のせいで、それは赤く染まっていた。色付いた舌を出しながら、ルーシィはナツに無邪気に笑ってみせる。それもなんだか可愛く見えて、しかしカキ氷のおかげなことが悔しくて。ナツは緩みそうになった口元をなんとか引き結んだ。
ルーシィはぺろりと唇を舐めて、ぴ、とスプーンをナツに向けてくる。
「ナツも道連れだからね!」
「え、やだよ」
「選択肢なんかないわよ、ほら」
悪戯っぽく笑ったその顔に、ナツの口は抵抗も無くカキ氷を迎え入れた。無意識に舌で転がすように溶かしながら、楽しそうに氷とシロップを混ぜるルーシィを見て。
ナツは諦めて、自分に笑顔を許した。
「お前カキ氷好きなんだな」
「えー?」
「めちゃめちゃ嬉しそうな顔してる」
「好きだけど。でも」
んん、と言いよどんで、ルーシィは首を傾げた。
「何を食べるか、じゃなくて誰と食べるか、じゃないの?」
「ああ…ん?」
数秒か、数瞬か。お互い見つめ合っていた目をぱっ、と逸らす。
暑さのせいか、それ以外の理由か――ルーシィの頬が、イチゴシロップで染められたように赤くなった。
ナツはこくり、と喉を鳴らした。口内に残った甘味が、鼻を通っていく。
「それって、オレと食べるのが、嬉しいってこと…だよな?」
思えば、ルーシィは初めから自分と食べようとしていたのかもしれない。
「あ、えと……」
ルーシィは質問には答えなかった。止まっていた手をさくさくと動かして、意を決したようにナツに視線を向けてくる。
「食べる?」
「うん」
ナツは今度は即答で頷いた。
向けられたスプーンをぱく、と咥えると、ルーシィは今日一番の笑顔を見せてくれる。それがどうしようもなくナツの心を揺さぶって。
口に出さずには、いられなかった。
「可愛い」
「え?何、聞こえなかった」
「あっちぃな、今日」
「あい」
グレイとハッピーが、テーブルに伏せたまま唸った。