ナツは含み笑いする子猫から引くように身を捩ると、再度ルーシィを見つめてきた。

「何よ?」

今度は睨まれている気がして、眉を寄せる。彼は促されるままに、しかしもごもごと歯切れ悪く、口を開いた。

「ルーシィ、お前…」
「え?」
「そんなに、オレとは、」
「あ、ルーちゃん!」

明るい声が、二人の間を割り込んだ。

「レビィちゃん?」

目を向けると、レビィが二つ先の角からこちらを見つけて、大きく手を振っていた。
小柄な彼女はにこにこと機嫌が良さそうに首を傾げる。

「仕事の帰りー?」
「う、うん。仕事っていうか、まあ…そうかな。レビィちゃんは?」
「今からなんだー。駅で待ち合わせ」

やや跳ねるような歩調で二、三歩進み、駅の方向を指差す。相変わらず動きが小動物のようで可愛らしい。
頬を緩めると、ハッピーが叫んだ。

「まずいよ!」

何が、と怪訝に思うと同時に、気付いた。

レビィの持つカバンに結ばれた、赤い、スカーフ。
彼女に視線を向けている、ルーシィよりも格段に目が良いナツ。

「レビィちゃん、逃げて!」
「え?」

ルーシィは自分の迂闊さに唇を噛んだ。
どこか、軽く考えていたのだ。無事に一日が終わるだろうと。
他の女の子にキスしようとするナツなど、想像してもいなかった。

「や…!」

ナツのマフラーを掴んで、ぐ、と足に力を入れる。ルーシィはそのまま目をきつく閉じた。

やめて、止まって…!
やめ……!
や……?

「――あれ?」

マフラーがぴくりともしない。
恐る恐る瞼を上げると、小刻みに震えるナツの背中があった。

「ナツ?」

ルーシィに迫ったときと同じく目からは生気が失せているものの、今までになく脂汗が滲んでいる。
ぐぎぎ、と歯軋りまでしている彼に、ルーシィとハッピーは首を傾げた。

「発動…してるよね?」
「たぶん……」
「どうしたの?」

レビィが一歩踏み出した。それを合図にしたかのように、ナツが動く。

「え…ひやああああ!?」

くるり、と身体を反転させると、ナツはルーシィの腕を掴んだ。彼女を引き上げるようにして、顔を近付けてくる。
意味のない音を悲鳴に変えて、ルーシィはばちん、とナツの頬に手形を付けた。
ハッピーが冷静に首を振る。

「ルーシィ、どうせならほっぺたじゃなくて口を叩きなよ」
「無理ぃいいいい!!」
「うわっ!またオイラ!?」

青い毛を毟り取る勢いで、ルーシィはハッピーの尻尾を掴んだ。銅鑼を叩く要領でナツの顔を打つ。

「ふぎゅ!」
「うご!」

きゅう、と目を回した二人を前に、レビィがそろそろと後退った。

「えーと…列車の時間あるから、行くね」
「ちょっ、待って!説明させて!」
「大丈夫大丈夫、誰にも言わないから。ルーちゃんにナツが発情したんだよね?いつも通りだよ」
「何が!?ってか発情じゃなくて発動だし!魔法なのー!」
「そっかー。ごめん、急ぐからまた今度、話聞かせてねー」
「レビィちゃああああん!!」

楽しげに去っていく後姿に手を伸ばして。

ルーシィは何もない空間を握り締めた。






やや浮かれ気味レビィちゃん。待ち合わせの相手はビス付きのあの人。


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