「手ぇ、離せ。そんなのに構うなよ」
「そっ、そんなのって、あんたでしょ!?」
「もしかしてナツ、自分にヤキモチ?」
「そっ…んなんじゃねえけど」
もごもごと口を尖らせるナツの頬は赤い。ハッピーからは一目瞭然であり、恐らくこの段階ではルーシィもわかっている。しかしこの先のナツの言動で、彼女の中では無かったことになってしまう。
ハッピーが口を挟むよりも早く、ナツは言い訳を舌に乗せた。
「人と話すときは目ぇ見ろって、イグニールが言ってたぞ」
「…ああ、そう」
ルーシィと一緒になって、がくりと肩を落とす。もう少しからかいがいのある関係には、いつなってくれるのだろう。
ナツはドアを閉めて、準備運動のように手首を回した。よ、とそれを持ち上げる。
「どうするの?」
「持って帰る」
「でもそれって、誰かの持ち物じゃないの?」
ハッピーの指摘に、ナツがぴくり、と反応する。
「ルーシィへの扉が?誰かのって…誰んだよ。何に使うってんだ」
「その名称やめて。そうよね、誰がこんなもの…っ!?」
ぱちり、と爆ぜたそれに、ルーシィが慌てて飛び退る。
「わ、ナツ!燃えてるよ!」
「あ!?やべやべやべ!」
「そのマフラー、そんな使い方して良いの!?」
ばたばたとそれなりに急いで消火したようだが、ドアは半分焼け落ちてしまった。ドアノブに手をかけると、がこり、と蝶番が外れる。
「…ナツ」
「な、なんだよ」
「オイラ、気持ちはわかるよ」
「なんのことだよっ!?」
「あーあ、どうすんの…持ち主怒るわよ」
「……――ねぇか」
「え?」
「いいじゃねぇか、怒らせておけばっ!つか、こんな変なドア持ってるなんて、ろくな奴じゃねえっての!」
「と、持って帰ろうとしたナツが言っております」
「うっせ!」
ナツはぷぅ、と頬を膨らませてそっぽを向いた。ルーシィはドアの残骸を困ったように見ていたが、すぐに首を振った。
「はあ…まあ良いわ。あたしもあんなの怖いし」
「だろ」
「言っとくけど、あんたが持つのも怖いんだからね!」
「へいへい」
「さて…て、あたし、こっからどうやって帰れと…?」
髪はまだ濡れていて、足元はスリッパ。ほとんどパジャマのような格好。
助けを求めるようなルーシィの瞳に、ナツとハッピーは笑って応じた。
「先にギルド行ってるな」
「あい、またね、ルーシィ」
「ちょっと、あんたら勝手過ぎでしょー!?」
きぃきぃと喚くルーシィの声を背中で聞きながら、ハッピーはナツの肩でごちた。
「もったいないな」
あれがあれば色々な悪戯が出来た。遅くなっても帰宅時間を気にしなくても済む。距離がゼロになるというのは、とても魅力的だった。
ナツは少し考えるような素振りを見せたが、いつもの能天気な笑顔で言った。
「あんなん無くても、オレはいつでもルーシィに会うぞ」
決意溢れる宣言。それに乗せるように、ハッピーもにっこりと笑った。
「あい、そうだね!」