「なんだこれ?」
「ドアに見えるよ」
ルーシィへの悪戯をいくつか言い合いながらギルドに向かっている途中、ナツとハッピーが見つけたピンク色。
木々の合間に不自然に佇むそれは、確かにハッピーの言う通り、ドアだった。
鮮やかな桃色の一枚板に、ちょうど良い位置のドアノブ。簡単な装飾の木枠。立派な、ドア。
問題は、それがドア『だけ』だということだ。
ハッピーが後ろに回って首を傾げる。片翼が生えたように見える扉を、ナツは開けてみた。
「ん?」
「は?」
ぱたん。
とりあえず閉める。ナツは顎に手をやっていったん目を瞑ってから、もう一度ドアを開けた。
「え?」
「……」
ぱたん。
眉間を揉んでみる。朝日を仰ぐ。息を吸う。
「ナツ?」
「ルーシィが居た」
「へ?」
口に出すと、ようやく落ち着いてきた。ナツはハッピーに頷くと、今度は彼がこっち側に来たのを確認してドアを開けた。
「も、ぃやっ!」
「ぐもっ!」
がこっ、と。
三度目は洗面器が飛んできた。
「ホントに、ルーシィ居たね」
「板?あれは板って言わねんだぞ。スイカっつーか、メロンっつーか」
噛み合わない会話にハッピーは半眼を向けたが、ナツは虚空を見つめてなにやら難しい顔をしている。思い出そうとしているのだと察して、注意を引くように大きく息を吐き出した。
「もう良いかな」
「そうだな、開けるか」
今、二人はドアの前に居た。
入浴中のルーシィには何を言っても聞き入れられず、ナツ達は三分間だけ待ってやる、と某大佐のようなことを言ってドアを閉めた。まだ一分ほどしか経っていないが、恐らく大丈夫だろう、と判断する。
ナツはかちゃり、と今度は警戒するように薄くドアを開いた。しかし隙間にそっと顔を寄せたのを見て、ハッピーは声を上げる。
「ルーシィ、もう良いー?」
「わっ、ハッピー!静かにしとけって!」
「早いわね…まあ良いわよ」
つまらなさそうな顔をして、ナツがドアを開けた。ルーシィはラフな部屋着姿で頭にタオルを乗せている。
「で、なんなの、そのドア」
「拾った」
「はあ?」
「良いから来てみろよ」
「ちょ、待って、え、そっち行くの?」
「ほれほれ」
ハッピーはナツと一緒にルーシィの手を引いた。スリッパのまま、強引に草の上に降り立たせる。
ドアは林の中と彼女の部屋を繋いでいる。振り返ってまじまじとそれを見たルーシィが、ぱくり、と口を開けた。
「…どうなってんの、これ?」
「なんかわかんねえけど、開けたらルーシィの部屋だったんだよ」
なぜか得意そうに、ナツがふんぞり返る。ハッピーはにやりと笑った。
「これでルーシィの部屋入り放題だね」
「だな」
「あんたらはこんなのがなくても入り放題でしょうが!」
噛み付いたルーシィが、ふるふると頭を振る。
「あたしの部屋が…」
「もうそろそろ諦めろよ」
「イヤよ!」
今日も頗る反応が良い。面白くて、ハッピーはナツとこっそり笑い合った。