舞台の上でマントが翻った。

「我こそは――!」

声を出しちゃいけないことくらい、わかってる。
ルーシィは普段何かとオレのことを非常識だと言うけど、別にそんなことはないはずだ。こうやって我慢だって出来るんだし。
でもちょっとストレス溜まるっつーか。
戦闘シーンなんて見るとこっちも暴れたくなるっつーか。
あ、今の攻撃。大振りだけど、あの位置からはかわしにくそうだ。
オレだったら余裕で避けれるけどな。今度、グレイに試してみるか。
うずうずして、でも我慢。ぐ、と手を握ると、ルーシィからも同じ反応。
ああ、やっぱルーシィだって我慢してんだ。
妖精の尻尾の魔導士だもんな、暴れたいのは当たり前だ。
にやりと口が笑う。人のこと野蛮だなんだ言っておいて、おんなじなんじゃねぇか。
どんな顔してんのか気になって、横を見た。後でそれをネタにからかってやろうと思って。

でも。

隣のルーシィはじっと舞台を見つめていて。
大きな目に、照明が反射してた。
なんか意外で、一瞬だけ息が止まる。たぶん、驚いたんだ。何にかわかんねぇけど。
掴めそうなところで逃げていくみたいな、もやもや感。
最近、こういうこと多い気がする。でも、わかんねぇもん考えても無駄だろ。
だから、考えなかった。
キラキラしたその目を、なんとなく。どうしたいとかそんなもんなくって、ただ、なんとなく。
なんとなく、見て。

――ルーシィ。

出せない声の代わりに、手に力を込めた。
ルーシィはゆっくりこっちを見て、眠そうな顔でオレの手を握り返してくれた。
なんでだ。すげぇ嬉しい。
首がもぞ痒いような気がして、マフラーの上から掻く。その間に、ルーシィの目はまた舞台に戻っちまった。
それが悔しくてつまんねぇから、親指を動かして、手の中のルーシィを撫でてみる。オレとは違う、すべすべした感触。
で、気付いた。

なんで、手ぇ繋いでんだ?

いつ繋がれたのか、覚えがねぇ。だからもちろん、理由もわかんねぇ。
オレが今、なんで嬉しいのかもわかんねぇ。
訊いてみようにも、声は出せない。訊いちゃいけない気もする。でも知りたい。
まあいいか、後で訊いてみよう。考えても仕方ねぇし。オレが嬉しいと思ってんのは間違いないし。

だったら、ルーシィが放すまで。
この手が、離れるまで。

これは、オレのだ。






オレのだからな!放すなよ!


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