「どいつもこいつも…」
「んあ?」
「わかりやすすぎんだよ」
「へ?何がだ?」
「何がって…」
言いかけて、ナツの様子に気付いた。焦った様子もとぼけた素振りもなく、きょとん、とただこちらの言葉を待っている。
(…マジで自覚してねえ)
なんでも顔に出るバカ正直なこの男に、演技など出来るはずがない。
今のは何も考えず、思うがままの言動だったのか。
グレイは半ば唖然として口を噤んだ。
「グレイ?」
「…いつか気付かれんぞ」
「だから何だよ、さっきから」
自分がジュビアに気付いたように、ルーシィも、また。
(そうなったら、このチームはどうなんだよ)
ルーシィは自分と同じように気付かないフリは出来ないだろう。
関係が、変わってしまう。今がこんなに安定しているのに。
気持ち悪いものでも見るような目付きで訝しむナツに、グレイは訊いた。
「お前は変わっても良いのか?」
「はあ?何が?」
「…現状が」
「ん?よくわかんねえ」
ナツは子供のように首を傾げつつ、それでも彼なりに何かを読み取ったか、言葉を続けた。
「わかんねえけど、仲間が居るなら何が変わっても怖くねえよ」
(そうだ。訊くまでもなかった。コイツはこういう奴だ)
はあ、と溜め息と一緒に、心の内を吐き捨てる。
「単純バカで羨ましいよ」
「ああ!?…あ」
食ってかかってこようとしたナツが、くるりと反対を向いた。後頭部に疑問を持つと同時に、ギルドの入り口に見慣れた金髪が現れる。
「ルーシィ!」
ナツはグレイの手から依頼書をひったくると、ギルドに入ってきたルーシィの元にどたどたと駆けて行った。
「遅ぇよ、ルーシィ!」
「おはよう、ナツ。何かあった?」
「仕事だよ、ほら!」
「えー、また勝手に決めたのぉ?」
「早い者勝ちだ!」
「それ違うわよね…」
楽しそうに笑うナツの目がキラキラと輝いているように見えて、グレイはぼそりと呟いた。
「オレのときとずいぶん違うじゃねえの」
自分の感情に対して構えることも避けることもせず、やりたいことを真っ直ぐに行動に移す。
ナツはどこまでもナツのようだ。
もっとも、自覚がないからなのかもしれないが。
(だいたい仲間が居る、なんて理由、お前にゃフラれたときの慰めにしかなんねえっつーの)
感心半分、呆れ半分で、グレイはふぅ、と長く息を吐いた。手のひらをじっと見る。
(これじゃオレが逃げてるみたいでカッコ悪いじゃねえかよ)
視界の端に、水色の髪が近付いてくるのが映る。
(あのアホのマネなんて、するわけじゃねえけど)
グレイは口を開いた。
「ジュビア」
「は…はいっ」
声がかかるとは思っていなかったか、ジュビアが小さく跳ねた。
(別に怖がってたわけじゃねえけどな!)
誰にともなく言い訳して、グレイはぐ、と拳を握る。
そして、ジュビアの瞳とぶつかった。
期待するような、熱い――…
「あー…」
「あ、あの…?」
「…なんでもねえ」
そもそも何を言うべきなのか。
今度は伝えるべき想いを探して。
グレイは底の無いポケットに手を突っ込んだ。