「未来の嫁さんだもんな」
「ち、ちげぇよ!そうじゃねぇって言ってんだろ!」
ナツは喚いてから、ちらりとリサーナを見やった。その向かいには金髪が見える。
「無事に戻ってきてくれたんだ。後悔しないようにしろよ」
「…別に、オレは」
たまにしかギルドに居ないギルダーツは、リサーナが居ないことに慣れていない。彼は3年前から時が止まっているようだ。
リサーナのことはよくわからない。2年前まではなんとなくずっと一緒にいるものだと思っていたのだが、今はそう思うことはない。もちろん、ギルドの仲間としては、ずっと一緒だと思うものの。
リサーナはどう思っているのだろうか。もし、2年前と同じ気持ちでいるとしたら。
ちょっと、困ったような気がしないでもない。
「あ、ナツ!」
近付くと、リサーナが満面の笑みを向けてくる。
それに怯んで、ナツはルーシィに視線を向けた。
「ちょ、ちょっと、良いか?」
「うん?」
不思議そうな視線が二方向から刺さる。ナツは落ち着かない心地でルーシィの腕を引っ張った。
「何よ…?」
カウンターの前まで連れていって、まだリサーナの視線が付いて来ていることに気付いた。ナツはルーシィの頭をそっと引き寄せて、内緒話をするように耳元に唇を近付ける。
途端に、ルーシィの身体が硬直した。
「な、ななな…」
「ルーシィ」
「何?何なの?」
ルーシィの声が微かに震えている。ナツは言うべき言葉が見付からずに、眉を下げた。
「えーと」
「ナツ?」
「えーと…」
「…何がしたいの?」
「だ、だってよ…」
「だってじゃないわよ」
「リサーナ、が」
「リサーナが?」
「お、オレのこと、好きだったら、こ、困るだろ」
「はぁ?」
「だから、ルーシィが居るから、と思わせれば大丈夫かと思って」
「…あたしが居るからなんだってのよ」
「だから、その。えーと…」
「あたしをダシに使おうっての?」
「う」
「あんたね…リサーナをなんだと思ってんのよ」
「なんだって…」
「こんなことするような男、好きになる奴いないわよ」
「……だ、だったら…いいけどよ…」
ルーシィは冷たい目を向けて、リサーナのところへ戻って行った。青い瞳はまだこちらの様子を窺っている。
「何かあったの?」
「別に、いつもの大したことない話だったわ」
「ねぇ、ルーシィってナツと付き合ってるの?」
聞こえてきた会話に、びくりと背筋が伸びた。
「やめてよね、そういうの。冗談にしても笑えないって」
ルーシィの言葉に、ずきりと痛みが走った。