誰かと組むのが苦手だ。
幸い一時的だったとは言え、自分のせいでリサーナを失ったことは記憶の髄に刻み込まれている。どうしても、守らなきゃと思ってしまう。自分を犠牲にしても、と過剰に庇ってしまう。
エドラスから戻ってきたリサーナと仕事する度、怒られてばかりだ。
『少しは信用してよね!』
リサーナのことは信用している。当たり前だ。
信用できないのは、自分自身。
そんなオレをリサーナもわかっているのか、最終的には困ったような笑顔を向けて守らせてくれる。きっと、オレのために。
優しさが、痛い。
「ちょっと、何ボサッとしてんのよ」
「あ…悪い」
「気ぃ抜かないでよね」
ぷい、とそっぽを向いた拍子に、ふわりと香るシャンプーの匂い。
そのまま辺りに注意深く目を走らせながら、エバーグリーンは腕を組んだ。
身体は細いがすこぶる強い。頭の切れる、今日の――相棒。
「この私が居るからには、猫の子一匹近付かせないわよ」
「猫…」
「なんで私を見てるわけ?」
「お前猫っぽいところあるよな」
「猫?この妖精のように美しい私に猫だなんて、喧嘩売ってんの?」
「綺麗なのはわかるが、どっちかというと可愛い猫みたいな」
「っ…わ、私は妖精なのっ!猫なんかじゃないわよ!」
この二人組での護衛依頼は、間違ったふりをしてわざと受理した。口実を得るために。
『エバ、人数指定の仕事請けちまってよ、一緒に行ってくれねぇか』
『ええ?ちゃんと確認しなさいよ』
嫌そうに、それでもリサーナの存在を口にすることなくOKしてくれた。妙なところで、救われる。
そして今も。
「エバ」
「気安く呼ぶな!」
「守ってやる」
「は?」
「オレは漢だからな」
「ウザ」
清清しいほどばっさり切り捨てて、冷たい視線を容赦なく浴びせてくる。
恐らくこいつはわかっているんだ。オレが漢として『守ってやる』と口にすることで。相手に守らせてもらうことで、安心していることに。
そしてこのままじゃ良くないと、オレ自身が苦悩していることに――。
きょうだいじゃない。仲間の中でもオレに厳しい、甘えのない関係。
その突き放す言動が、今のオレに必要だって、どこで気付いたんだ?
「お前は…ああ、いい」
「何よ?」
「関係ねぇんだ」
「はぁ?」
お前がどう思っていようと関係ない。
「オレにとって、相棒と言えるのは、お前だけだってことだ」
「な…、何言ってんの!?私はそんなのになった覚えないわよ!」
妙な顔をして怒鳴りだすのも、どこか心地良い。
だから今は。
お前の眼鏡の奥の温かさに、少しだけ寄りかからせてくれ。