ルーシィが好きだ。――恋愛感情として。
だからといってナツには何かが変わった気はしなかった。
いつものようにルーシィをからかって悪戯して、怒られて。
それでも最後には許されて。
いつもと同じで良かった。
いつもと同じが良かった。
それまでだって、ナツはルーシィの側に居たんだから。
これからだって、ナツはルーシィの側に、居るんだから。
ギルドに着いて初めにすることはルーシィの確認だ。
ハッピーを頭に乗せて、ナツは視線だけをカウンターに向ける。
まだ来ていない。
「おはー!」
ハッピーがテーブル席のマカオとカナを見つけて声をかけた。
「おっす」
「お早うさん、ナツ。ルーシィちゃんはまだか?」
「…あー、まだみてぇだな」
カウンターにもう一度、今度は顔ごと目を向けて答える。
マカオはよくナツにルーシィのことを尋ねてくる。なんとなく居心地の悪い気持ちで、ナツは軽く身じろぎした。
ハッピーはテーブルの上に飛び移って、通路を忙しげに歩くウェイトレスに魚を注文する。
「まぁ座れよ、ナツ」
「おー。…カナ?どうかしたか?」
「いや別に?」
睨まれたような気がしたが気のせいだったか。
カナは抱えた酒樽を傾けた。
「カナ、朝から豪快過ぎやしねぇか」
見かねたマカオがやんわりと静止するも、酔わなくても怖いもの知らずなカナが聞くはずもない。ぐびびっと喉を鳴らすのを見て、ハッピーが感心したような声を出した。
「カナはホントにお酒好きだねー」
「そうだな、ハッピー。一時期減ってたのになぁ」
溜息まじりに言うマカオに、ナツはふぅん、と気の無い返事を返した。減ったこともあんのか、気付かなかった。
「マカオには関係ないでしょ!…ねぇ、ナツ?」
「なんだ?」
「最近どうなんだ、ルーシィちゃんは?」
にやり、と口元を歪めて二人が問う。何が楽しいんだか。
ナツは少しむっとして答えた。
「どうって…変わんねぇよ?」
「恋人とか出来たりしてないの?彼氏いない歴17年とは言え、そろそろそういう話出てきても良いと思うんだけどなぁ」
「そうなのか?」
「ルーシィじゃ無理だよ」
ハッピーがばっさり切り捨てた。自分の言ったことを根底から信じている目をして。
ナツは相棒に笑って同意する。
「そりゃそうだ」
「なんでそんなに自信あんのかね」
「ルーシィちゃんを狙ってる男なんて、ごまんといるだろうに」
呆れたような二人の視線に、どうしてわからないのか、とナツは不思議になる。
ルーシィに恋人なんて無理だ。ナツがいるのに。
いつも側に、ナツがいるのに。
「あ、ルーシィ」
ハッピーがナツの後ろを見やって言う。振り返ると扉からルーシィと――グレイが入ってくるところだった。