炎の魔導士と氷の魔導士






学食から戻ると、ルーシィは教授室で机に向かった。ナツ達は邪魔にならないようにソファで大人しくしているつもりだったが、彼女はそれを良しとは思ってくれなかった。

「あんたらいつまで居るのよ」
「ルーシィが家に入れてくれるまで」
「入れない。帰れ」
「冷てぇなぁ…。なんか面白い本ねぇの?」
「わ、バカ!それは素手で触っちゃダメ!」
「へ?うお、なんだこれ?バラバラになったぞ」
「いやああ!なにしてんのよー!?ああもう、じっとして!一歩も動かないで!」
「だってよ、ハッピー」
「あんたに言ってんのよ!助走付けて殴るわよ!?」

ぼろぼろの本(紙とさえ言い切るのは難しい代物だったが)をナツから引っ手繰るようにして、ルーシィが睨みつけてきた。
しかし彼女は帰れと口で言うだけで、ナツ達を叩き出そうとはしない。あくまで、自分達の意思で帰ってもらおうとしているようだった。それは当然のことかもしれない。今だけ居なくなったとしても納得していなければ、ナツ達は必ずまたやって来る。
これはナツにとっては好都合だった。こちらから帰ると言わなければルーシィにナツ達を排除する術は無い。
ナツはルーシィの心の底から怒ってます、という表情に、こっそりとガッツポーズをした。会ったときは笑顔を『作って』完全に警戒していたルーシィが、ナツにもその心情がわかるまでに隙を見せている。――今はまだ怒りしか見えないが。
結局その日、ルーシィが帰るまで、ナツ達は教授室のソファに居た。


夏の夕方はまだ明るい。
校門の前で「もう来ないで」と念を押され、無視するように「またな」と笑って。ナツ達は背を向けたルーシィを5mほど離れて尾行した。依頼状には自宅住所の記載は無かった。もし侵入することになった場合必要となる。
ルーシィの家は大学からそれほど離れていなかった。本に視線を落としたまま、彼女は一つのアパートに入っていった。
それを見届けて、来た道を戻りながら、ナツは肩の上のハッピーに愚痴った。

「あー…今日もコンビニか…」
「にゃー…にゃ、にゃー!」
「ん?」

ぽふぽふ、とマフラーが叩かれる。ハッピーの視線の先を辿ると、大学の門から、黒髪の男が出てくるところだった。

「グレイ?なんでこんなとこに居んだよ?」

それはグレイ・フルバスターだった。白いシャツの隙間からシルバーのペンダントを覗かせて、ズボンのポケットに両手を突っ込んでいる。
ナツ達を認識して足を向けてきた彼は、見下ろすようにしてナツを睨んだ。

「仕事だよ。お前らこそなんでこんな遠いとこに居るんだよ?左遷か?」
「汚ねぇ面近付けてんじゃねぇよ。オレらも仕事だっつーの。報告聴いてねぇのか?」
「ナツはラジオ忘れて聴いてないけどね」
「ハッピー…お前味方だよな?」
「オレはお前の名前は耳を素通りする」
「あぁ?」

ぎりぎりと睨み合っていると、門を出入りする学生達が不審な目で見ていった。それに気付いてグレイが咳払いをする。

「お前ら、宿どこよ?」
「駅前」
「そうか、じゃあオレんとこの方が近いな。ちょっと面貸せよ。同じ街なら口裏合わせが必要になるかもしれねぇし」

少しむっとしたが断る理由もなく、ナツ達はグレイに付いて行った。




宿の部屋で3つ目のハンバーガーを開けながら、ナツはグレイの説明に目を丸くした。

「んだよ、じゃあ同じ大学の教授がターゲットだってのか」

グレイの仕事は魔力反応の調査だった。ターゲット自身が魔導士かもしれないし、ターゲットの周りに魔法アイテムがあるのかもしれない。
ナツは面倒そうだな、と目を細めた。正直、そっちじゃなくて良かった。
グレイはピザを一切れ手に取ると、食べやすいようにくるり、と丸めて口に入れた。一口齧りとって飲み込むと、思い出すように唸り始める。

「ああ、今日会って来たんだけどよ、どうもな…。メチャメチャ警戒してやがるし、長期戦になるかもしれねぇ」
「あー、ルーシィも警戒しまくって…た、けどちょっとずつマシになってきたよな、ハッピー?」
「あい。なんか面白い子だよね」
「お前ら収賄容疑者にあんま懐いてんじゃねぇよ。…って、子?」
「ああ、まだ17だってよ」
「は?…もしかしてルーシィってルーシィ・ハートフィリアか?」
「知ってんのか?」
「お前らが知らない方が逆に驚きなくらい有名人だよ。ギネスでも認定されてる、今現在の最年少教授だ。ハートフィリア財閥の一人娘だしな、たまにテレビや雑誌にも出てる。…しかし収賄か…すげぇ騒ぎになりそうだな」
「まだ容疑だろ」

ナツは自分の声音が固まったことに気付いて、瞳を揺らした。国のお墨付きがあろうが無かろうが、ナツ自身がルーシィを疑っていないことを示す証拠だった。
悪い奴には思えない。しかし、はっきり違う、と示すことが出来るほどの確証は無かったはずなのに。

オレ、ルーシィを信じたいんだ。

自分の心の底から出てきたそれに少なからず狼狽して、誤魔化すようにハンバーガーに歯を突き立てた。
グレイは観察するようにナツを見据えた。

「お前らはこういうの初めてなんだろうけどな、情を移すなよ。これはフェアリーテイルの仕事だぞ」
「あい…」
「わかってんよ」

ナツはグレイの黒い瞳を睨み返した。






グレイ登場。
すでに半分仕事放棄のナツ。



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