ある夜のこと
「あっ、……んっ、…っもっとぉ」
「…っは、……ふ、ぅうん……」
マグノリアから少しだけ西に言った小さな村、鳳仙花村。
東洋建築の並ぶ観光地に、ナツとルーシィとハッピーで仕事に来ていた。
仕事が想像していたよりも難しく、日が暮れてしまったので旅館に一泊していくことになった。
一部屋10000Jは懐が頼りないルーシィにはちょっと払い難く、ナツとハッピーの説得もあり同じ部屋で泊まることにしたのだけれど…
「……いっ、ぁあっ、……っ、」
何なのよ、とルーシィは布団の中で悶えた。
枕を頭に押し付けて耳まで覆い、音が聞こえないようにする。
けれど隣の部屋から聞こえてくるそれはまだルーシィの耳に届いてきた。
湿っぽい女の人の声にどこか余裕を感じる男の人の声。
それはまさしく行為中の声で…って行為中って何よ!?
いや、分かってるんだけど…そうじゃなくって!
チラッと想像してしまったことが恥ずかしくまたも布団で悶えた。
はぁ、と溜め息を吐いて膝を抱えて丸くなる。
体は火照っていて、吐く息は熱を持っていた。
この騒音で目が覚めたのは3分ほど前で、少しずつ声が大きくなっている。
あぁ、もう!
このままじゃ目を閉じることも出来ない、少し水を飲んで落ち着こう、そう思ってルーシィは布団から体を起こした。
「…ん、ルーシィ?」
隣の音の騒音か、ルーシィが立てた音が大きかったのか、はたまた勝手に目が開いたのか、ナツも体を起こしルーシィを見て言った。
けれどまだ完全には目が覚めていないようで、ボーっとルーシィを見ていた。
「あ、ナツも目が覚めちゃったのね」
ルーシィのその質問にナツはこくり、と頷く。
首を縦に動かすというよりは頭を縦に乱暴に振っていて、その様子が可笑しくてルーシィは小さく笑い、水持ってくるね、と洗面所へ向かった。
ナツはルーシィの後ろ姿をボーっと見つめ、ふと隣の部屋から何か大きい音がするのに気付いた。
夜に何してんだよ、とナツは耳に意識を集中させて…あ、と小さく声を出した。
両手にコップを持って戻ってきたルーシィはその様子を見て、気付いた?と困ったように笑い、はい、と水の入ったコップをナツに差し出した。
耳の良いナツのことだ、きっと自分以上に細かく聞こえているに違いない。
耳が良いのも考え物だな、とルーシィは思った。
手に持ったコップから水が零れないように気をつけながら布団の上に座る。
隣からはまだ房事の音が聞こえていて、それがルーシィの体をくすぐる。
何かムズムズしたものが体を駆け巡っていて体が火照り、落ち着かない。
とにかく水を、とグッとあおいで、ふぅと息を吐く。
これからどうしよう、そう思って顔を上げるとナツと目が合った。
いきなり目が合った驚きで肩が跳ね上がるが、視線は逸らせなかった。
じっ、とナツを見ると視線が絡み合い、不意に、このまま目を閉じればキスするのかも、と思った。
部屋に響くのは時計の音と嬌声。
全身を巡る何かがルーシィをあおる。
ゆっくりと瞼を下ろしていくと、ナツがこちらに近づいてくる気配がした。
瞼を完全に下ろすとナツをすぐ傍で感じる。
顔に触れるナツの息も熱を持っていた。
あと、少し……。
突然、ふわぁ、と欠伸の音が聞こえた。
驚いて音のした方を見ると、ハッピーが眠そうに目を擦りながら体を起こしていた。
あ、と呟くとハッピーがこちらを見て、2人の距離を確認する。
すると慌てて2人にお尻を向けるようにして丸くなった。
「オイラ見てないから続けていいよ!」
「いや、あんた見てるでしょ!しかも続きって……!」
丸くなりながらもチラリとこちらを覗くハッピー。
続き、という言葉に反応して自分の頬が赤くなるのを感じた。
私、もしかしてあのままだったらキ、キスしようとしてたの!?
かぁ、と一気に赤く染まった頬を見てハッピーがからかうような声を出した。
「ナツと今、キスしようとしたんでしょ、くふふ」
「くふふ、じゃないわよ!それにキスって…!」
「おいらが寝てからしようって約束してたの?」
「あんた6歳のくせにマセ過ぎよ!」
先程感じていた体の火照りは収まり、耳を澄ませると隣からの騒音も聞こえなくなっていた。
チラリ、とナツの様子を伺うと、ナツも頬が赤くなっていた。
恥ずかしいのは私だけじゃないんだ、それに―――キス、しようとしてくれた。
恥ずかしさと小さな嬉しさを感じながら未だくふふ、とにやけているハッピーの頬を思いっきり引っ張った。
ぐぇ、と音がした。