―――ポキッ。



口にしたお菓子を歯に挟んで。

手に少し力を入れただけで簡単に折れる。

奥歯でカリッと噛み砕けば。

途端に口いっぱいに広がる、焼いた生地とチョコレートの味。



「あら?珍しいものを食べているわね」



不思議そうに覗き込んできたミラさんに、手にした箱を差し出すも。

“大丈夫よ”とやんわり手で制止された。

いらないの?と首を傾げて、またポキリ。



「どうしたの?それ」

「仕事の報酬に貰ったんです。新作とかで」

「あぁ、そういえば製菓会社の仕事だったわね」



なるほどね、と頷くミラさんへ(だから、怪しくないですよ?)ともう一度差し出す。

ふふふ、と意味深な笑顔を浮かべて箱から1本抜き取る彼女。

(やっぱり、信用してなかったのか)



「じゃ、遠慮なく」



ぱくり、と加えたミラさんの口元からも、――ポキッ。

もぐもぐと頬が動き、“あら”と驚いたように手で口を覆う。

その表情は、いいモノを発見した時の喜び。



うふふーと笑い返して、短くなった残りをぽいっ、と口の中へと放り込み。

箱の中から新たに取り出して。



ぱくっ。



「よぉ、ルーシィ!何食ってんだ?」



思わず口にしたソレを外す事も忘れ、声の主を確かめる。

想像通りの桜色の髪と、そのにかっとした笑顔に思わずきゅっと眉が寄った。

(本当に食べ物には敏感なんだから…!)



―…いや、一緒に仕事をしたナツにも、食べる権利はちょっとぐらいはあると思うけど。

(甘いモノは女の子が食べるって決まってるのよ!)



手を出される前に隠してしまえ、と手に持っていた箱を背中へ隠す。

途端にぷぅ、とナツが頬を膨らませた。



「1本ぐらい、分けてくれてもいいだろ?」



むーっとした表情で睨まれて、背中で隠している手にきゅっと力を込める。

負けじと正面からナツの目をじーっと見返す私。

やがて、やれやれと肩を落としたナツが。



「…しゃーねぇなぁ。これでいいよ」





ぱくっ。――ポキッ。





「…ごっそーさん」



もぐもぐとソレを飲み下し。

バイバイ、と背中を向けて手を振り立ち去るナツ。



「〜〜〜っ!!」



固まったまま動けない私の口には。

まだ、銜えたばかりのはずのソレが。



ぽっきりと見事に口元で折られて、残されていた。






勝負は見つめた瞬間に※






「…甘ぇ」



口いっぱいに広がったチョコレートの味に、思わず眉を顰める。

にこにこと、あんなに嬉しそうに食べているのだから、と口にしたけれど。



「あー…、やっぱり食うんじゃなかったかなぁ」



ガシガシと髪を掻き毟り、空を仰ぐ。

脳裏に浮かぶのは、ソレを銜えていた彼女の唇。



―――届かなかった、か。



「―…ちぇっ」



あわよくば、と狙っていたのだけれど。

届かなかった。あと3センチ。







甘い甘いチョコレートの味。

でも、“もっと甘い”モノを、食べてしまいたかった。









碧っち。さまのGuroriosaより30000hit記念小説を強奪!

ナツー!!頑張れー!と応援したくなりますね!
この距離感、めちゃくちゃ好き…!ほんの少し、あとちょっと、って!仕掛けたナツの余韻も仕掛けられたルーシィの動揺も、触れるよりもずっと想像の余地があって……うああ、たにしの口からリアルにきゃー、だなんて声が漏れるとは…。

30000hitおめでとうございます!



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