ゆらり、揺れる光ひとつ。
ひらり、落ちる涙ひとつ。
それは掴むことのできない想い。
空に浮かぶ月に手を翳して、そんなことをのんびりと想った。
ここは、マグノリアで最も人気のある温泉街、鳳仙花村。
東洋かぶれのさる公爵が設計した大胆かつ微妙な観光地である。
鏡花水月
「ルーシィ?」
何やってるんだ、とナツは首を傾げながら近寄って来る。
毎度の如く温泉上がりに枕殴りをし始めたナツたちを横目にひとり、ルーシィは別の部屋で涼んでいた。
「あんたたちの枕投げに付き合ってたら大怪我しちゃうじゃない」
呆れながら溜息ひとつ。
苦笑しながらそう答えると訝しがりながらナツは隣へ座った。
「…それだけか?」
「え?」
「…なんでもねぇ」
(部屋にいないから探しに来てくれたのかな…?)
むす、と口を尖らせて拗ねているようにも見えるナツ。
くすり、と笑みを零せば、なんだよ、と不機嫌な声が返される。
「ね、あそこに池があるの見える?」
「あ?どこだよ」
ほら、と指を指した先には、こじんまりとした池が見えた。
「あぁ」
「池が、鏡みたいで周りの景色を映し出しているの」
「うん」
「ああいうの、幻想的っていうのかな?」
「げん…?」
何言ってんだ、と首を捻るとくすり、とルーシィがまた笑う。
「ナツにはわからないか」
「なんだよ」
「情緒とか」
「じょーちょ?」
「うん」
返事をしながら再び手を月へ翳すルーシィ。
月光を浴びて、きらきらと光る金糸がいつもよりも輝いてみえた。
まるでそれだけが真実かのように。
(…なんだ?意味がわからねぇ)
ぶんぶん、とナツは胸を過った想いを掻き消すように首を振る。
「ナツ?」
ルーシィがきょとん、としながら名前を呼んだ。
「どうかした?」
「…なんでもねぇ」
いつもと違って見えた、なんて思ってもよく見ればいつもと何も変わらない。
けれど、何故か急に不安になって、ぎゅ、とその白い手首を掴む。
ぴくり、と身体が震えたが、もう一度名前を呼んで顔を覗き込んできた。
「ルーシィはルーシィだ」
もどかしい気持ちも不安も全部、振り払うように強く、そう言い切る。
「……ありがと、ナツ」
嬉しそうに頬を赤らめてそう口にしたルーシィはやっぱりいつもと違って見えて。
確かめるように掴んだ手に力を込める。
「行こうぜ」
腕を引いて無理矢理立たせたら、満面の笑顔が眼に焼きついた。
それはまるで…―――