二人と一匹は洞窟にいた。
奥の湖の水を採って来る仕事だったが、そこに至るまではかなり多くの肉食モンスターがいる。すでに3回程戦闘をこなしていた。
細い道を進んで、ようやく広い部屋状の場所に着いた。大人5人くらいが並んで歩ける程度に開けている。
ルーシィは息を吐いて、ナツの手のひらの上の炎を見つめた。
地図が示す次の道は狭く、もう体を横にしないと進めそうにない。
「あん?ルーシィ挟まんねぇか?」
「どういう意味よ、それ!?あたしそんな太くないわよ!!」
ナツはルーシィの胸を指差して、
「大それた肉が付いてるじゃねぇか」
「セクハラ!」
片手で胸をかばって右足を振り抜いた。
その時。
「っつ…」
足首に鈍い痛み。
「…怪我したのか?」
「ん…、ちょっとね」
ちょっと、と言ったがブーツを脱いでみると、右足の足首が腫れている。いつの間に捻ったんだろう。
「どれ?」
ナツは無造作にルーシィの片足を上げた。
「っ、きゃあっ!バカ!下ろせ!」
咄嗟にナツの肩を掴んでバランスを取りながら叫ぶ。スカートの中が見えるじゃないか。
「騒ぐなって」
「ルーシィ、今日は緑なんだね」
ナツの頭上のハッピーが言う。
「緑?なにがだ?」
「きゃあああ!バカ!バカ猫!」
短すぎるスカートを押さえて喚くと、ナツがうるさそうに足を下ろした。
「見たくなったら言うっての」
「なっ…何言ってんのよーっ!?」
「あんま動かさない方が良さそうだな」
先の暗い道を見据えて何やら思案気に呟く。
「ん、今日は諦めて、また明日来ようぜ」
「え…でも」
「ちゃんとテーピングでもして固定すりゃ、また来れるだろ」
「でもナツ、帰り道だってルーシィを歩かせちゃうよ?」
そうだ。来た道だって細くて天井だって低い。
にやり、とナツが笑った。それはもう、悪そうに。
「こうすんだよ」
言って全身に炎を纏う。魔力の渦がナツを中心に展開され――
「火竜の劍角!!」
ナツは壁を蹴り、天井に向かって体当たりをした。
がらがら、と洞窟の一部が崩れて星が瞬く。どれだけの破壊力があればそんなものが壊せると言うのか。
「一番星みっけ!」
「呑気なこと言ってんじゃないわよ!!」
「ナツは本当に無茶ばっかりです」
ナツは空に向かって得意気に指を指すと、くるりと振り返って衝撃で地面に座ったままのルーシィを横抱きに抱え上げた。
「や、ちょっと!」
「なんだよ?うっせぇな」
「なんだよ、じゃないでしょ!?せ、せめておんぶとか…!」
「なんでだよ、ルーシィの顔見れなくなるじゃんか」
「はぁっ!?」
「人と話すときは顔を見るもんだって、イグニールが言ってた」
「あ、ああ…そう…」
気が抜けて、溜息とともに首に両腕を回す。
「しっかりつかまってろよ」
「…うん」
ルーシィは顔を近づけて、ナツの首に強く抱きついた。
これは不可抗力だ。断じてやりたくてやっているわけじゃない。
赤い顔を隠す口実にもなって、ルーシィはそっと目を閉じた。
「る、ルーシィ、大それた肉が」
「セクハラ!!」