今日も二人は一緒に居る。

ロキとルーシィが付き合いだしたのは、2日前からだ。強いアプローチにルーシィがようやく折れて――聞いてもいないのにロキは嬉々として語っていたが、渋々の割には彼女の笑顔は自然で明るい。ナツはぼんやりとその光景を眺めて、ファイアドリンクを両手で包んだ。

「ルーシィ」
「何よ?」
「呼んでみただけ」
「…バカ」

勝手に耳が拾ってくる会話は、内容も意味もまるで無い。それでもルーシィが身動ぎして、ロキに少しだけ近付いた。幸せそうに微笑みを彼女に向けて、今度は呼びかけと共に新店の情報を提供する。ルーシィはぱぁ、と顔を輝かせた。

「なんかつまんないね」

ハッピーが、ナツと同じように向けていた視線を自分の手元に引き戻して、ぽつりと零した。ルーシィに構ってもらえない。ギルドでは大体ロキがべったりで、その声も視線も向けてもらえなくなった青い猫はむぅ、と口を尖らせた。

(ハッピーはまだマシじゃねぇか)

ナツは部屋に行くことすら禁じられた。一度警告も聞かずに侵入したが、ロキよりもルーシィに叩き出された。今度入ったら一生口聞かない、と言われ、窓が見える位置で一時間ほど立ち尽くした。
永遠に続くと無条件に思っていた生活が、突然目の前で形を変えてしまった。恋人になった、と聞かされたときは、何も変わらないと思っていたのに。
それはロキとルーシィの関係だから、自分とルーシィには何も影響ない――そう、信じていたのに。
常に隣にいたはずの存在が、手を伸ばせない距離に移動したことに、ナツは大きな喪失感を抱えていた。

「ねぇ、ナツ?」
「なんだよ?」
「ルーシィ、さ…オイラ達の隣が良いと思わない?」

ナツはゆっくりとハッピーに視線を向けた。「思う」頭で考えるよりも口が答えを出す。それに少し目を泳がせてから、ナツは声を低めた。「どうする?」

「やっぱりここは勝負じゃないかな、と思います」
「お、それ、わかりやすいな」

ナツは肩を回すと早速とばかりに席を立った。ガジルが頬杖の上でこれ見よがしに溜め息を漏らす。それに少なからずむっとするも、ロキの背中を睨みつけると、黒髪長髪の存在はナツの頭から消えた。
先ほどから眺めるだけだった二人に、どたどたと近付く。

「ルーシィは本当に可愛いね」
「はいはい、さっきも聞きました」
「僕は言い足りないんだよ?」
「オレはもう聞き飽きた」

会話に割り込むと、ロキよりも先にルーシィが振り向いた。気配に気付かなかったのだろう、大きな目を更に見開いて、その中にナツを映す。それが久しぶりに感じて、ナツは眉間にシワを刻んだ。

「何か用?ナツ」

ロキがにっこりと、ナツの視線を自分に向けた。ついでにルーシィの手を握ってみせる。ぽっ、と彼女の頬に赤味が差したが、振り払うことはなかった。喧嘩もしていないのに負けた気がして、ナツはぎり、と奥歯を噛む。

「勝負しろよ、ロキ」
「いいよ」

「そう言ってくると思ってた」呟いて、ロキは立ち上がった。安心させるようにルーシィの肩を叩くと、行ってくるね、と微笑みかける。

「いちいち触ってんじゃねぇよ」
「ナツに言われたくないね」

サングラスの向こうの目が、冷たく光った。

「ずっと、触り放題だっただろう?僕がなんとも思ってなかったとでも?」
「あぁ?オレは良いんだよ」
「何が良いのよ…」

呆れたような声にルーシィをちらりと見ると、その胸には青い猫が納まっていた。盛大な裏切り行為に引き剥がしてやりたくなるも、ナツはまずこっちだ、とロキに目を戻した。

「オレが勝ったら…わかってんだろ?」
「僕が勝ったら手を引いてもらうよ」
「ちょ、ちょっと、二人とも…」

ルーシィが止めるのも聞かずに、酒場の真ん中で拳を突き出した。



魔法は使わずとも、さすがに身体能力の秀でた二人。何故か途中から参戦してきたグレイやエルフマンを交えつつ、一撃入れれば一撃貰うを繰り返す。最終的に、渾身の蹴りに壁に叩きつけられたのは――ロキだった。

「よっしゃあ!」
「大丈夫?」

いつもの喧嘩程度に考えているのだろうルーシィが、呑気そうにロキではなく壊れた壁を見ながら言った。
ナツは上機嫌でルーシィの横に腰掛けると、にっ、と笑いかけた。

「勝ったぞ!」
「ああ、はいはい。見てたわよ。良かったわね」
「おう!」

ロキはよろよろと立ち上がると切れた唇の端を乱暴に拭った。きっ、と睨みつけてくるその瞳を、ナツは見返して手招きする。

「何やってんだよ、早く来いって」
「…え?」
「混ぜてくれんだろ?」

オレが勝ったんだから、と続けると、ロキは呆然としたまま三度瞬きをした。ナツはルーシィの腕の中の相棒を見やって、言葉を重ねる。

「ハッピーだってオレだって、ルーシィいねぇとつまんねぇんだよ」
「は、はい?何よ、それ?」

ロキが長い溜め息を吐き出した。片手で顔を覆って、唸る。

「それ、ずるいよ」
「あ?」

ナツは何がずるいのかわからずに首を傾げたが、ロキは頭を振って苦笑すると、ゆっくりとナツ達に向かって歩き出した。
そのままルーシィの横に座ろうとするのを見て、ナツは、

「ロキはこっち」

言って、自分の隣――ルーシィと反対側――をぽんぽん、と叩いた。
腰を半分浮かせたまま、ロキの目が据わった。
ナツとハッピーは、同時ににやり、と口角を上げる。

「どういうつもりかな?」
「ルーシィを独り占めなんて許さないです」
「皆で付き合えばいいじゃねぇか」
「…はい?」

かくり、とルーシィが傾いた。ナツはそれに必殺・スマイルをお見舞いしてやる。笑顔で押されるのに彼女が弱いことくらい、彼はよく知っていた。それこそ、ロキよりも、と自負している。

「な?」
「え、あ、うん?」
「ちょ、ちょっと、ナツ!それは無理!」
「ルーシィはうんって言ったよな」
「あい!言いました!」
「ん?んんん?どういうこと?」
「ルーシィ、頑張って!拒否するんだ!」
「良いよな、ルーシィ?」
「え、あ…えと?」
「良いよな?」
「う、うん」

瞬間、ナツとハッピーの顔に花が咲いた。「よっしゃああ!」ガッツポーズして喜びを露わにする一人と一匹に、ロキとルーシィが息を飲んで顔を見合わせる。こめかみに人差し指を当てて考え込むルーシィを見て、ロキが諦めたように首を振った。

「まぁ…しばらくは、ということかな」
「え、えと…まだちょっとよくわかってないんだけど」
「皆で仲良くしよう、てことみたいだよ」
「あ、そう?」

そうよね、ナツだもんね、と笑うルーシィに、ロキはこっそりと溜め息を逃がした。







なんてカオス。


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