だらだらとルーシィを引き止めて、すっかり遅くなった帰り道。
ナツは眠りこけたハッピーをギルドに預けて、家へとルーシィを送っていた。
「あ、ポラリスだ」
「ぽらりす?」
空を指すルーシィ。すらりと伸びた白い腕が、月明かりに浮かぶ。
「北極星よ。こぐま座の一部で――あの方向が北なのよ。方角がわかるから、道しるべになるの」
「ふぅん。ルーシィみたいだな」
「は?何が?」
「だってよ――」
言いかけて、止めた。
「やっぱなんでもない」
「何よ、もう?」
揺れる金の髪に銀の光が反射する。
月に照らされたルーシィは、持ち前の気品と凛とした瞳とが相俟って否応なしにナツの目を引いた。
ナツにとってルーシィは夜でも昼でも光り輝いて見える。どこにいても、一番に目を引く。ルーシィと一緒ならどこにだって行ける気がする――なんて。
気恥ずかしい。
ナツは軽く頬を掻いて夜空に視線を戻した。
極端に目の良いナツには、きっとルーシィよりも多くの星が見えるだろう。
牛やロキの星もあるのかな、と思ったが口にはしなかった。ルーシィがそれらを指し示すのは、なんとなく面白くない。
「死んだら星になるんだっけか」
何気なく思い出して言って。失敗した、と思った。
ナツは大切な人を失っている。
ルーシィは言葉にしたことはないが知っているんだろう。ぴく、と肩が揺れて足が止まった。――視線は空を見上げたままで。
切なくなる。
ナツは唇を噛んだ。
ルーシィには誤解されたくない。もう忘れたんだ。いや忘れてはないけど。それでも今は。
言葉はぐるぐると頭の中でフォークダンスを踊ってばかりで、一向に輪を乱す気配がない。口から何も出てこない。
ナツは諦めて吐息を吐き出し、代わりに左手を伸ばした。
力が抜けたように下ろされたルーシィの手を、想いを込めるように握る。
少しでも伝わってくれれば。
「…あたしはどこにも…行かないよ」
泣きそうな辛そうな、それでも笑顔だとわかる表情でルーシィが呟いた。ナツの為に無理やり笑ってくれた。
違う。そうじゃなくて。それも嬉しいけど。代わりじゃないんだ、お前がいいんだ。そんな顔すんなよ。オレだってどこにも行かない。お前の側にいる。
「…ん」
結局何も伝えられず、ナツはようやくそれだけ言った。
星は願いを叶えてくれるだろうか。