リサーナはナツの正面で立ち止まり、マフラーをぐいっと引っ張った。
「おわっ!?」
引力に逆らわず近付いてきたナツが、間近に迫っても避けようとしないリサーナに気付いて慌てて首に力を入れた。
「う・そ。本気にした?」
くすり、と笑ってリサーナはマフラーから手を離した。真っ赤になったナツが、悪戯っぽく笑うリサーナを見て更に血流を巡らせる。
本当は触れようと思っていた――ナツが抵抗しなければ。
ナツが自分のことを憎からず思ってくれているのは気付いているが、仕掛けるのはいつも自分で。いつも、ナツはギリギリの線で踏みとどまって。最後の一歩が踏み出せずに、自分から引いてはただの悪戯だと予防線を張る。
勇気が持て切れずに、リサーナはナツに背を向けた。残念、と心が沈むも、まだこの心地よい関係が続くことに安堵もする。
口元に貼り付けた笑みと、足を彩るステップは、リサーナの心情の40%。
「さ、ギルド戻ろう!」
くるりと振り向くと、短い銀髪が風に靡いた。
「リサーナ」
「なぁに?」
「いつまでも、振り回されてると思うなよ」
ナツは顔を赤くしたまま、リサーナに半眼を向けていた。