そうだったらいいのにな






「――…」
「すげぇ、全然聞こえねぇ」
「オイラ、ルーシィが静かなんて気持ち悪いよ」

心底胸を悪くしたような表情で、足元のハッピーがナツを窺った。「そうだな」と返すナツにも半眼をくれたルーシィは、自分の置かれた状況を呪うように頭を振った。
口は動いているのに、声が出ていない。
仕事中、隙を突かれてルーシィにかけられた、呪文封じの魔法。幸いにして敵はあっという間にナツが片付けたものの、効果は切れずに今もなお彼女の喉から音を奪っている。

「とりあえずギルドに戻ろうぜ」
「あい。解除魔導士に頼むことになりそうだしね」

溜め息にすら音がない。ルーシィはナツに向かって口を動かした。

「ん?」

読唇術など心得ていない二人はことり、と首を傾げた。眉を下げたルーシィはカバンから紙とペンを取り出すと、さらさらとそこにありがとう、と書き付ける。

「何が?」
「戦闘のことじゃない?」
「別に気にしなくても良いのに。変な奴」
「――」
「あ、今のはわかるよ。変な奴って言うな!でしょ?」
「てかルーシィの言いそうなことってすぐわかるよな。読みやすいってか、単純ってか」
「――」
「あんたに言われたくない、と申しております」
「お、ハッピー、ホロロギウムの真似か?芸の幅が広がったな」

今度は口を動かすことはなかったが、その目付きだけで『なにバカやってんのよ』と伝わってきた。ナツは面白くなって、ぷぷ、と頬を緩ませる。

「喋らなくても変わんねぇな」
「あい、不便なのは違いないけどね。…そうだ、ルーシィ。その紙貸して。必要そうな言葉を先に書いておいてあげる」
「ん?」
「ほら、ここに『はい』とか『いいえ』とか書いておけば、それを見せるだけで会話できるでしょ?」
「『はい』『いいえ』って、首を振るんで十分じゃねぇか?それよりさ、こういうのが必要だろ」

ナツはハッピーから紙を受け取ると、そこに挨拶を書き込んだ。覗き込んだルーシィの頬がぴきり、と引き攣る。

「――」
「『オッス、オラ悟空』なんていつ誰が言うのよ!?と申しております」
「そうかぁ?今のは『さすがナツ、そのチョイスは思いつかなかった!』じゃねぇの?」
「全然違うし、ナツが調子に乗ると碌なことが無い、と申しております」
「おいハッピー、今の、ルーシィより翻訳が早かったぞ」
「さすがナツ、それに気付くとは思ってなかった!と申しております」
「お前がな」

ルーシィの口元が笑みを象ったのを見て、ナツはハッピーと笑い合った。声が聞こえなくても、その笑顔は変わらずに二人を幸せにしてくれる。

「ん、やっと笑ったな」
「それでこそ『ルーシィ』って感じです、あい!」

満面の笑みを向けると、ルーシィが目を丸くして、軽く後退った。何か口がもごもごと動いてはいるが、ナツにもハッピーにも予測できないようで、二人は顔を見合わせた。もう一度ルーシィに目を戻し、ナツは今度は口の動きではなくその表情から読み取ろうとして――。

「…なんか、顔赤くねぇか?」

照れてるんじゃないか、と気付いたら、恥ずかしいことを言ったような気になって、ナツの顔にも熱が上がってきた。言葉に触発されて、ルーシィも更に赤色を塗り重ねる。
ハッピーはナツの変化には気付かずにルーシィを見上げた。

「照れてるの、ルーシィ。……そんな力いっぱい否定したって肯定にしか見えないよ」

慣れたようにくすくすとルーシィをからかうハッピーに、ナツはいつもそうだったっけ、と思い当たった。確かにこういうルーシィは何回も見たことがある気がする。その意味を考えたことが無かっただけで、今初めて見る表情ではない。同時に、なんだ、恥ずかしいことなんてねぇんじゃねぇか、と思い直す。

「照れんなよ、ルーシィの笑顔が大好きだって言ってんだから」
「……」

言った途端に、ルーシィがぽかん、と口を開けて固まった。場の空気すら凝固して、ナツはハッピーに視線を向ける。青い相棒の口も同じようにぱっくりと開いていた。

「ん?」
「あ…そ、そうだね!オイラもルーシィの笑顔、大好きだよ!」

多少音量の過ぎる声で、ハッピーがルーシィの強張りを解いた。つ、と二人の視線がナツの前で絡み合う。
かくり、とルーシィの肩が落ちた。

「んん?」
「――…」
「うん、まぁ…ナツだからね…いつものことだと割り切って…」

ぼそぼそと呟くように言って、ハッピーはルーシィの足にぽん、と肉球を当てた。それを抱き上げて長く息を吐く仕草をすると、ルーシィは顔を上げてナツをその瞳に映した。

「―――…」

にこり、と笑うルーシィが本当に幸せそうで。言った内容はわからなかったが、ナツは身体の芯が温められたように感じて笑顔を返した。

「さんきゅ」
「え?ルーシィなんて言ったの?」
「わかんねぇけど。ルーシィのことだからな、あたしもあんたの笑顔が好きよ、とか?」

適当な言葉にそうだったらいいな、とナツが思う間もなく。
ルーシィが振りかぶって投げたハッピーが、顔面にぶつかってきゅう、と鳴いた。






Qualia(閉鎖:倉庫化)」のぱんださま宛てにこっそり相互記念として書かせていただきました!

恒例のサイト名をお題にして…して…し…なんですか、この難解なサイト名は!?
哲学ですね。頭が完全にこんがらがってます。感じ…確かに科学じゃ証明し切れない知覚…。色々調べてみたんですが、たにし、わかったような気になってるだけですね。説明しろと言われても出来ぬ…。
と、いうわけで。ハッピーにルーシィって感じ、と言わせてお茶を濁そうとしているのがわかりますね…なんという逃げ方…。声を失ったルーシィだけど、ナツ達はルーシィにいつも通りに振舞って欲しくて奮闘する話でした。声が無いために表情を見るしかなくなったナツが改めてその意味に気付いて、はナツルー要素があまりにも薄かったので慌てて足してみました。だってcarpio、ナツルーサイトですもんね!
最後のルーシィのセリフは『ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ』と想定して書きました。でもご想像にお任せします。



ぱんださまのみお持ち帰りできます。
相互ありがとうございます!



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