「今日忙しいんだけど」
ソファで待っていたオレを、家主が見るなり不機嫌そうな声を上げた。
つかつかと机の前まで行って椅子に座り、くるりとそれごと身体を回して睨んできたが、すぐに半眼の目が諦めたように閉じられた。
ふぅ、と息を吐き出し、
「あのさ、少なくとも、一人で来るのは止めてよ。ハッピーとか、エルザとか、誰かと一緒なら良いから。男一人で入ってくるのは、おかしいでしょ」
こんなことを言い出すのは、きっと恋人が出来そうだから。
力が抜けそうになる膝を叱咤して立ち上がった。肺に空気を入れる。
この気持ちを、言葉にする。
「好きだ」
「…は?」
他にも言いたいことがあったような気がしたが、これしか出てこなかった。
口を開けたルーシィに、もう一度。
「好きだ」
「あー…仲間としてってことね。あたしもナツのこと、仲間として好きよ」
ルーシィは椅子を回して机に向かった。その背が拒絶しているようにも見えるが、そんなのどうでもいい。
悔しいがグレイの言う通りだ。あいつたまには正しいこと言うじゃねぇか。
オレが、ルーシィを、好きなんだから。
一歩、背中に向けて踏み出した。
「違ぇよ。好きだ」
「……」
「大好きだ」
「そ、そう…でもあたしは」
「お前が誰を好きでも、オレはお前が好きだ」
ルーシィの肩が震えた。
届いた、と思う。きっと。
やっと振り向いたルーシィは、眉を吊り上げて唇を震わせていた。
「いい加減にしなさいよ」
「なんで怒ってんだ?」
「どうせ、あたしが離れていくと思って子供みたいな独占欲が出てきただけでしょ!別にチーム辞めたりしないし、今まで通り変わらないわ!これで良いでしょ!?」
「そんなんじゃねぇよ」
「そんなんなの!勘違いしてるだけよ!」
「勘違いなんかじゃねぇって」
「あんたに恋だの何だの、理解できてるとは思えない!」
顔を真っ赤にして、怒鳴り散らすルーシィは、どこか泣きそうに見えた。
「理解ってのはわかんねぇけど」
「ほら、見なさいよ!」
「でも、お前に惚れてる」
息を飲んで、唇をわななかせた。オレはまた一歩踏み込んで、ルーシィに近付く。
「だから、なんで…っ!どうして今そんなこと言うのよ!」
「悪ぃ。でもオレ、諦めるなんて無理だ」
「そんな勝手な…っ!」
「うん、勝手だよな」
「なんで、今更!」
「今更じゃねぇよ。あん時だって好きだった」
「じゃあなんでよ!」
「だって信じられなかったんだよ。お前が…ルーシィがオレのこと、なんて」
「そ、それにしたって…あれからどんだけ経ってると、」
「お前変わらねぇし、段々夢だったんじゃねぇかって。オレが都合の良い夢見てたんじゃねぇかって思って」
「……」
「オレ、お前じゃなきゃ嫌だ。ルーシィに好きな奴居ても、諦められねぇ」
くしゃり、と顔を歪めて、ルーシィの目から雫が零れだした。
まずい。オレ、今。
ルーシィが泣いても撤回する気になれねぇ。