背くらべ





報酬自体は半減したものの、人の好い依頼主は落胆するルーシィを見て可哀想に思ったようだ。代わりに何か差し上げます、と案内された倉庫はそれほど大きいものでもなかったが、中には高い棚が備え付けられておりありとあらゆるコレクションがそこに並んでいた。

「どれでも構いませんよ。じっくり選んでください」
「どれにしようかな」
「おい、これにしようぜ。かっけぇ!」

振り向くと、ナツは身の丈以上もある大剣を抱えてルーシィをキラキラした目で見ていた。それにす、と半眼を作って、手を振り下ろす。

「却下」
「えー、なんだよ。これ良いじゃねぇか」
「あんたそんなの使わないでしょ!?」
「何言ってんだ、お前が使うんだよ」
「尚更却下!」

ぶーたれたナツに「元あった場所に戻してきなさい!」と言うと、倉庫の入り口に居た依頼主がくすり、と笑った。

「親子のようですね」
「あんな息子は嫌です」

ちぇ、と言いながらそれでも素直に戻しに行ったナツを横目に入れて、ルーシィは棚を見上げる。ふと、一番上に、丁度手に乗るくらいの丸い物が置かれているのが目に入った。
薄い紫色で、何か細かい紋様が刻まれている。

「あれは?」
「ああ、あれは魔法のランプです。とは言え、偽物なんですけれど」
「偽物?」
「レプリカという奴ですよ。機能はないですが…かつてあったとされる願いごとを叶えるランプと、同じ形と聞いています」
「へぇ…」
「ルーシィ、ルーシィ!これなんかどうだ?」

いかにも楽しそうに声を張り上げるナツを一瞥して、ルーシィはその手の中にある東洋の和太鼓にコメントを――探したが面倒になって首を振った。

「…じゃああんたそれ持って帰んなさいよ」
「うぉ、ツッコミ投げやがった!」

何故かショックを受けたように顔を引き攣らせたナツに、依頼主はくすくす笑った。

「いやぁ、本当に仲がお宜しいんですね」
「だ、誰が、」
「おう!妖精の尻尾は皆家族みたいなモンだからな!」

屈託無く笑うナツに構えた自分がバカらしくなって、ルーシィは肩を落とした。

毎回毎回、こいつと来たら意味わかってない。

だがその空気の読めなさに頭とほんのり染まった頬を冷やされて、ルーシィは棚の上をもう一度見上げた。

「…よ、っと」

爪先立ちになって手を伸ばしてみたが、ランプにはあともう少しだけ、届かない。見ていた依頼主が足を踏み出す気配がした。が、

「ほら」

ひょい、と伸ばされた腕が、狙った獲物を横から掻っ攫った。ルーシィはそのままの姿勢で、目線だけを頭の位置に引き下げる。
ナツが、ランプを掴んでルーシィに差し出していた。

「あ…ありがと」
「ん」

ナツは軽く頷いて、太鼓を奥に運んで行った。ルーシィは手の中に納めたランプを忘れて、その背中を見送る。

「どうかしましたか?」
「あ、いえ…何も」

どうかはしていた。驚いたのだ。
グレイやロキに比べて、ナツは小柄である。性格も無邪気で子供っぽく――はっきり言えばガキだ。
だから、なんとなく、失念していたのかもしれない。

ナツって、男の子だったんだもんね…。

さっき並んだ腕は、ルーシィのそれとは全く違って筋肉質で…逞しかった。肩幅だって断然広い。背丈も、いつの間にか少し伸びたような気がする。

当たり前のことを再認識して、ルーシィは胸の内に点った温かな光に戸惑っていた。






2010.12.6〜2010.12.19拍手お礼
まだ恋じゃないルーシィサイド。



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