ルーシィが帰る前にギルドを出てから、いつものように不法侵入して。
ナツとハッピーは仲良くルーシィの怒声を聞いて、そのくるくると変わる表情に口元を緩めた。

やっぱりルーシィは面白い。

ぶつぶつ言いながらキッチンに向かうルーシィを、ナツは暖炉に火を入れながら待った。火が薪に移ったところで、温かい紅茶と焼き菓子が運ばれてくる。
テーブル上に腰を落ち着けていたハッピーがぴょこり、と立ち上がった。

「全くもう!これ飲んだら帰りなさいよ!」
「いいじゃねぇか、別に。オレらが居たって何も変わんねぇだろ?」
「変わるわよ!お風呂入りたいの!」
「入れば?」
「誰もルーシィの風呂なんか興味ねぇよ」
「腹立つわね…」

ぴきり、と青筋を立てたがそれ以上は何も言わず、ルーシィはカップを持ち上げた。ふぅ、と液面に息が吹きかけられる。
ハッピーの口がにやり、と弧を描いた。

「ねぇ、ルーシィ?今日もロキと随分仲良さそうだったけど、何の話してたの?」
「ぅあっつ…っ!」

ルーシィが小さく叫んだ。顔を顰めて、舌を少しだけ出す。

「へ、変な言い方しないでよ!」

熱さのせいか頬は赤く、目はうっすら滲んでいる。ナツは手持ち無沙汰になったような心地で、クッキーに手を伸ばした。

「仲良いのは違いないよ」
「ロキは誰とでも、でしょ!」

怒ったような口調が、ハッピーを叱っているようにも、嫉妬しているようにも聞こえる。
ナツは口元についた欠片を指で落とした。

「お前、ロキのこと好きなの?」
「は…はぁ?」

ルーシィがぎょっとして――そう、ぎょっとして、ナツを見つめた。視線を巡らせると、ハッピーまでもが口を開けて見上げている。
そんな反応をされたら、変なことを訊いた気になってくる。ナツは居心地が悪くなって椅子の上で身動ぎした。

「な、何?ナツ…何か変な物でも食べた?」
「どういう意味だよ。別におかしかねぇだろ」
「ナツが訊くっていうことがおかしいんだよ」

気味が悪いものでも見るような目が、ナツを無遠慮にじろじろと眺め回す。
ぴきり、と口が引き攣った。

「…もういい」

ぷい、とそっぽを向くと、ルーシィが慌てて手を振った。

「ごめんごめん!えと…なんだっけ?」
「ロキのことだよ」

ハッピーのセリフに「あー」と脱力した声が被さった。見ると、げんなりした表情のルーシィが立肘の上に頬を乗せている。

「んー…そりゃ仲間だし、星霊だし、大事な友達だし。もちろん好きよ?でもそういうんじゃないんだってば」
「またまたー。ビックスローと闘ったとき、いちゃいちゃしてたくせにー」
「誰がよ!?」

かぁ、とルーシィの頬が淡く色付いた。
何も変わらないはずの視界が、焦点を失ってぼやける。

「いちゃいちゃ…?」

ハッピーがくふり、と笑った。

「オイラ、聞いちゃったもんね。『あんたを信じてるんだから、』」
「わぁあああ!」

今度こそ完全に真っ赤に染まったルーシィが、ハッピーの頭を掴んで黙らせた。青い身体が、むぎゅりとテーブルに押し付けられる。

「痛いよ、ルーシィ」
「わ、忘れなさいよ!今すぐ!」

喚くルーシィはナツのよく知る彼女とはどこか違って見えた。普段から大声で怒鳴るルーシィだが、今は…そう、『女』の顔をしていて。
気を落ち着けようと口に含んだ紅茶が、酷く苦く感じた。

どこかで、ルーシィは自分と同じだと思っていた。外見に反する色気の無さからだろうか、ナツにとってルーシィは、男でも女でもなく『ルーシィ』で。
その『ルーシィ』が異性の話をするとは思ってもみなかったのだ。
ルーシィは赤くなったまま、焦ったようにハッピーを揺らしている。
そして、彼女にそんな表情をさせる原因がロキであることが、ずぶずぶと心を沈ませていった。
どこに視線を置いたら良いのかわからず再度クッキーを掴むと、ルーシィの手から脱出したハッピーが目を三日月に変えた。

「焦っちゃって、かわいー」
「んな、あのねぇ、」
「かわいくねぇよ」

衝動的に発した声が、部屋の空気をぶち破った。






自分と同類だと思っていたルーシィがいつの間にやら違ってた、みたいな。幼馴染に初めて女を感じる瞬間、みたいなのを狙ったのに…たにし外してばっかり。


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