「燃やした…?なんでだ?」
「何?何かあった?」
近付いて来ないルーシィに向けて、灰皿を見せてやる。
「これ、草を燃やした跡がある」
「ん?ちょっと待って…」
ルーシィは木箱から出来るだけ離れたまま、灰皿を受け取った。仰いで嗅ぐと、眉根を寄せた。
「あ、こっちだ。この匂いよ、森に充満してたの」
「てことは…燃やすと魔法が入れ替わるってことか?」
「ええ!?じゃああたし破壊出来ないってこと!?」
心底残念そうな表情で口を尖らせたルーシィに半眼をくれてやってから、ナツは木箱に向き直った。
「どうすっかな。粉々にしても意味ねぇし、水に浸けるか?」
「いつか乾くならそれも無意味よ。匂いを封じる、ってことでしょ…」
思案気に指を顎に当てていたルーシィが「あれ?」と呟いた。その急に変化した声音に振り返ると、愕然と見開かれた瞳と、震える唇がナツを待っていた。
「あ、の…さ…」
「なんだ?」
「あたし達、どうやって戻るの、かな?」
「……」
原因は判明した。謎の薬草を燃やした臭気。メカニズムは不明だが。
ナツは目を閉じて一瞬考えようとし――止めた。
「まぁなんとかなるだろ」
「あんた今考えるの面倒臭くなったでしょ!?」
「すげぇな、ルーシィ。いつの間に心を読むなんてハレンチな魔法覚えたんだ?」
「違うし!しかもハレンチって…ああ、もう、色々突っ込みたい!」
頭を抱えるルーシィを一頻り眺めてから、ナツは明るく言ってやった。
「大丈夫だ、なんとかなるって。ギルドに帰りゃあ、じっちゃんだって居るんだし」
ギルド、と小さく反芻すると、ルーシィはふぅ、と息を吐いてナツを見上げた。
「ん…そうだよね。なんとかなるよね!」
にこ、と笑うその顔には、もう不安など見当たらない。ナツも嬉しくなって、おう、と笑い返した。
「よっし、じゃあ早いとこ片付けて、ギルドに帰るわよ!」
嬉々として、ルーシィが気合を入れるように拳に炎を纏う。それを視界に入れた瞬間、ナツの第六感が危険を告げた。
「ちょっと待て」
「何よ?」
ルーシィが口を開いたその時、身体の芯が歪むような痛みを感じた。膝に力が入らなくなって腰を落とすと、ルーシィの身体がゆらり、と傾くのが見え――
「ルーシィ!」
震えそうになる膝を叱咤して、ルーシィと床の間に滑り込む。柔らかな身体が、ナツの腕の中に納まった。
「ルーシィ、おい!大丈夫か!?」
がくがくと揺さぶると、瞼が震えた。辛そうに開かれた瞳は潤んでいる。
「ナツ…熱い…」
「へ?」
はぁはぁと息も絶え絶えに、ルーシィが真っ赤な顔でナツのマフラーを掴んだ。唇が酸素を求めるように開いては閉じてを繰り返す。
それを青褪めた顔で見ながら、恐る恐るルーシィの額に手を当てた。
「あっちぃ!!」
抱き込んだ時から気付いてはいたが、体温が異常に上がっている。これは何だ。魔力の暴走?
「…炎のせいか!」
この部屋に充満した草の成分が、ルーシィの出した炎に燃やされたに違いない。新旧重なった臭気が何の効果を呼んだのかわからないが――ここに居てはいけない。
ナツはルーシィを抱え上げると、全速力で建物から外に出た。