複数人で足を踏み入れると、使用魔法が変化する。
そんな都市伝説のような謎の地帯の調査依頼。能力系魔法に限って起こる現象と聞いて、ハッピーを置いてナツとルーシィ、2人だけで受注した。
原因がわかり次第、形あるものであれば破壊して構わない、との素晴らしい解決方法と、報酬の高さに釣られてほいほい来てみたが――その森に入り込んだ途端、ぐにゃり、と身体の芯が揺らぐ感覚がした。
ルーシィだけでなく、ナツも同じように感じたのか、眉を寄せて目配せしてきた。そして、すぐに悟ることになる。
自分の魔法に、異変が起きていることを。
最初に気付いたのはナツだった。
「なんか鼻が利かねぇ」
呆然とし、ルーシィを見て、顔色を失くした。そのまま膝から崩れ落ちる。
「え、なに…」
ルーシィも言いかけて、随分多くの葉音が聞こえることに気付いた。その理由を考えようと頭を巡らし、すぐに自分の身体の内を流れる魔力の本流を知る。
「あ…」
舌で探ると、やっぱりあった。滅竜魔導士の証、牙。
「なんか吸血鬼になったみたい」
「……呑気だな、お前…」
ナツがルーシィを見上げて溜め息を吐いた。
ルーシィはゆっくりと右手を顔の前に上げると、一度拳を作ってからそっと開いた。ぽ、と小さな火が、手のひらに点る。
目の前でがっくりと両手両膝を地面についていたナツが、それを認めるなり顔をくしゃりと歪めた。
「オレの炎…」
「案外面白いわね、これ。本当に熱くないんだ」
対照的に口角を上げて、ルーシィは揺らめく炎を角度を変えて観察した。一時も同じ形を取らないそれはとても綺麗で、なんだか愛おしい。
「オレの炎…」
ナツは体育座りに体勢を変えて、めそめそと背中に影を背負った。鬱陶しいわね、とルーシィは火を消して、腰にぶら下げていた鍵束を外す。
「ほら、あんたはこっち」
声をかけると、振り向いたナツは口を尖らせて恨みがましい目で束を見た。
「使えるんでしょ、星霊魔法」
「……まぁな」
少し考えた後、ナツはそれを受け取った。かちゃかちゃと鍵を選ぶと、ぴ、と構えて魔力を集中させる。
「開け、子犬座の扉」
ぽむ、とプルーが現れて首を傾げた。ナツとルーシィ、それぞれを交互に見て、投げ出したナツの足に震えながら乗ってくる。
「お、プルー。やっぱわかんのか?」
ナツが嬉しそうにプルーを撫でた。微笑ましい気持ちで眺めてから、ルーシィは木々の間から見える建物に顔を向けた。
「で、どうする?」
「行くしかねぇだろ、このままで。て、そっちになんかあんのか?」
「建物が見えるわよ。この森、微かに薬草みたいな匂いがする。その中心があっちにあるわ」
ぽむ、と子犬座を閉門して、ナツが立ち上がった。その目にはもう嘆きはない。
ルーシィはがっと右手を構えた。
「よっし、燃えてきたわよ!」
「それオレのセリフだし」
くるくると指にかけた鍵束を回して、ナツははぁ、と息を吐き出した。