「恋ってなんなんだよ」

ガジルは頭を抱えたい気持ちになった。どうしてこうなった?経緯がよく思い出せない。
茶々を入れて笑い飛ばしたいが、発言した本人は至って真剣な目をしているし、加えて言うなら言われた人間も真剣そのものだった。

「ジュビビン、て感じです」

ガジルは遠い目をした。不審だと言わんばかりの表情でこの珍しすぎる組み合わせのテーブルを見やっている妖精女王が視界に入る。

助けてくれ。

彼女はこちらの思惑には気付かないように目を逸らした。ガジルは再び同テーブルについた2人に意識を戻す。

「じゅびびん?」
「そうです!」

バカか。少々色ボケの過ぎる古い付き合いの水色頭を見やって極力静かに溜息を吐く。――そんなのでわかるわけはない。





雨ふり








2人がこんな話になった経緯はよく思い出せない。
ジュビアが一方的にガジルに所謂恋の話をするのはいつものことだ。以前、その取り止めの無い長話を途中で遮ったところ涙の洪水で身体のビスを錆びさせかけられた。それ以来、ガジルは彼女の恋の話は大人しく聞くことにしている。
今回はたまたまガジルがナツと軽い口喧嘩をしていたところにジュビアがやって来た、それだけのはずだった。それがまさに口喧嘩から暴力を伴った喧嘩に移行しようとした時だっただけで。
喧嘩の突然の終結にどこかへ行くと思われたナツが、毒気を抜かれたようにテーブルに残り。……こんなことに。

「んー?」

ジュビアがジュビビン、と言いながら胸の前で手を組んだのを見て、ナツが同じ動作を繰り返す。見てはいけないものを見てしまった心地でガジルは冷や汗を流した。

こいつには無理だ。

ナツはその行動が派手でギルド内でも目立つ。滅竜魔導士で耳も目も良いガジルには、ナツが同じチームのルーシィに恋心を抱いていることは明らかだった。しかし、それは全てナツの意識とは別のところにあるようで、好意を向けられた彼女がその真意を確かめようとすると彼は途端にその手を翻す。あれでは弄んでいるようなものではないか。本人にそのつもりがないのは、それこそ火を見るより明らかではあるが。
現に恋が何か、と聞く始末だ。あれだけくっきり恋愛感情を持っておきながら、それに気付けないような鈍い輩に理解させようなどと、土台無理な話で。

「火竜には理解できねぇよ」

思ったことが口をついて出る。

「なんだと!?」

鼻を鳴らして入れられた横槍にナツが噛み付いてくる。その予想通りと言えば予想通りの反応に、ガジルはふと思いついた。これを利用すれば。

「ギヒッ、無理なモンは無理だって言ってるだけだ」

ニヤリ、口角を上げてわざと見下ろすように視線を投げる。さぁ来い。

「オレに無理なモンはねぇよ!ちゃんと説明されればわかるっつの!」

ギリ、と奥歯さえ噛んで睨みつけてくるナツに、ガジルはかかった、とほくそ笑む。
気にしてやる必要はないが、正直ルーシィには以前思い切り腹を蹴った引け目がある。今更面と向かって謝るなんてできない分、ここらでちょっと暗躍してやろうという気になった。






ガジルくーん!好きだー!!


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