いたずラッコ






「ナツ…」

部屋に行くと、ルーシィが腕を絡めてきた。目は潤んで熱っぽく、薄く開いた唇はナツを誘うようにゆっくりと近付いてくる。
ナツはその細い腰に手を伸ばして背中を押し上げるように体を密着させた。もにょ、とナツの胸板に柔らかい感触が押し付けられる。
的を失った唇が、ナツの耳に触れて吐息を吐き出した。
手のひらを馴染ませるように背中を這いずると、腕の中のルーシィがん、と悩ましい声を漏らす。ナツは口を尖らせた。

「で、毎日毎日、何なんだよ」
「だからサービスだって、言ってるでしょ」

鼓膜を震わす囁き声に背筋がぞくりとする。不本意ながら。

「ナツだって、気付いている癖にいつも最初は拒まないじゃない」

片眉が上がった。
指摘されて初めて、ナツは自分の行動を見返す。反論が出来なかった。
わかっているのに、どうしても期待してしまう。今日こそ、本物では、ないか、と。
黙り込んだナツの心臓のあたりに、つつつ、と細い指先を乗せてくる。

「こんなにドキドキしちゃって……手、出したいんでしょ?」

腕の中で、ジェミニがルーシィに似つかわしくない妖艶な笑みを浮かべた。




ルーシィはこの時間居ない。ナツは居ないとわかっていて部屋に行く。
ルーシィが帰ってきて、面白い反応をするのが楽しくて仕方ないのだ。
しかし、その日、ルーシィは部屋に居た。

「ナツ?どうしたの?」
「…あれ?」

ナツは窓枠に足をかけたまま瞬きをした。きょとん、とこちらを見やるルーシィは、姿も形も匂いさえも間違いなくルーシィだった。

「お前、さっきギルドに居たよな?」
「んー?」

ルーシィは悪戯を思いついたような表情で、ナツにす、と近付いてきた。

「ねぇ、ナツ?キス、してあげようか?」
「へ…」

首に、ルーシィの白い腕がするりと絡みつく。普段からは想像も出来ない行動に、ナツは射抜かれたように動きを止めた。どこまでも楽しそうに、唇が寄せられて――。

「あ、時間切れだ」
「うぉ!?」

至近距離でぶくぶく、とルーシィの姿が崩れる。ナツは大きく後ずさって、壁に頭をぶつけた。

「な、あ、お前…」
「「ジェミニだよー」」

ピーリピーリ、と現れた小さな双子に、どっと気が抜けた。ナツは肩を落として、溜息を吐く。

「てか、なんで…」

ナツの言葉を聞きとがめて、ジェミニが唱和した。

「サービスだよ」「サービスだね」
「なんのだよ!?」

悪びれも無く理解不能な言葉を吐くと、ジェミニは言った。

「僕たちがここに居たこと、ルーシィに言っちゃだめだよ。内緒で来ているからね」
「ルーシィに告げ口したらどうなるか、わかってるよね?」
「ど、どうなるってんだよ?」
「ナツが拒否しなかったこと、言っちゃうよ」

ぼむ、とナツの顔に火が点いた。

「い、いや、あれはそういうことじゃなくってだな!いきなりだったから驚いただけで!」
「「でも」」

ピーリ、とポーズをとって、ナツを同時に指差し、言い切った。

「「時間があったら、してたよね」」

言葉に詰まる。全くその通りだった。ナツはあの瞬間避けようとか止めようとかは考えていなかった。ただ迫り来るルーシィの唇を受け止める準備しかしていなかった。
顔を真っ赤にしたままのナツを満足そうに見て、ジェミニは告げる。

「じゃあね、ナツ。くれぐれも、よく考えるんだよ」

きゅるん、と星霊界に消えた双子を見送って、ナツはベッドに突っ伏した。
足を二、三度ばたつかせてから、枕を抱える。

「うあああぁ」

なんだかとんでもない弱みを握られたような気がする。そして同時に、ルーシィとキスしかけたという事実を思い出して、ナツは枕を抱き締めた。
そういう目で見たことはないはずだった。同じギルドで、同じチームを組む、魔導士仲間。それなのに。

「うあああぁあー…」

ナツはベッドの上をのた打ち回った。






ジェミニ、強力過ぎますよね…いつでもエルザにしておけばいいじゃん。ロキよりもよっぽど強いじゃん。


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