“大切なのはわかるけど、もう少し労りなさい。大切だからこそ、たまには休ませてあげなくちゃ”


そう言って半ば強引にナツにマフラーを渡した。正直馬鹿だと思う。
だってイグニールから貰ったマフラーの代わりなんて、出来るはずないのだから……。



『やさしさで、みちる』



マフラーを渡してはや1ヶ月、ナツがルーシィお手製のマフラーをしてくる事は1度もなかった。ギルドに居てもクエストに行っても、ナツは相変わらずトレードマークの鱗模様。
ルーシィがマフラーを渡そうと思ったのはほんの出来心だった。大切だと語る彼の養父のマフラーは、度重なる戦闘ですっかり汚れていたし、日頃の感謝の気持ちという事もあって編んだもの。ーー確かに、ナツに対して好意がまるで無かったと言えば嘘になるのだが……。
とにかく本当にただの出来心だったのだ。ちょっと期待もしたし悲しくもあったが、大好きな父親の、唯一形として残っているあのマフラーと比べると、それはナツにとって遥かに思い入れの薄い物である。着用しないのも無理はない。
ルーシィはギルドの中央で暴れるナツを見る。やはり首にはいつもと同じ、イグニールの思い出がはためいていた。


「おいルーシィ!」


ルーシィの複雑な心境など知る由もなく、ナツが気さくに話し掛けて来る。マフラーを見るとチクリと胸が痛んだが、何事もないようにルーシイは明るく振る舞った。


「明日ちょっと付き合ってくれよ。エルザから飯屋の割引券貰ったんだ! 何でもすげえうまい所らしくてよ、エルザはクエストで行けないから、ペアだし誰か誘って行って来いって!」


ペアの割引券を片手に、嬉々とした表情でナツはルーシィに語る。おいしい所だと聞き、かなり楽しみにしているようだ。
飯屋などとナツは言っていたが、割引券に記載されている店の名前を見てルーシィは仰天する。それは今マグノリアで話題になっている、大人気ビュッフェの名前だった。
ルーシィも是非1度行ってみたいと思っていたのだが、生憎相手とお金の問題で行くに行けなかったのである。思わぬ幸運にルーシィは飛びつく。こんなチャンス滅多に来るものじゃない。


「じゃあ明日の夕方、カルディア大聖堂前で待ち合わせな!」

「オッケー!」


明日はご馳走だとルーシィは浮かれた気分でギルドを後にする。にこにこ顔で歩いていたら、船乗りの2人に「良い事あったのかい?」と聞かれてしまった。
家に着くと早速明日着ていく洋服を選ぶ。何せ出かける場所は話題の人気スポットなのだ、うんとオシャレして行きたい。
「あとでキャンサーに見立ててもらわなくちゃ」と、ルーシィはタンスの中から服を選んでいく。ある程度決めると風呂に入り、就寝準備を整えてベッドに潜り込んだ。


(そういえばナツはどんな服で来るのかしら? まあどうせいつもの格好だろうけど……)


そこまで考えてルーシィの気分は急落する。マフラーの事を思い出してしまい、もやもやとした不快感に見舞われた。「どうせ“いつもの格好”よ」と、ちょっぴり投げ遣りな気持ちになる。
考えるのはよそうと気持ちを切り替えルーシィは眠りにつく。明日は楽しくなりますようにと、今は亡き母親に願いを聞いてもらった。


ーー翌日。


ルーシィは待ち合わせ場所のカルディア大聖堂前に居た。キャンサーに見立ててもらい髪もメイクもばっちり決めてきた。そのおかげか、いつもより多くのナンパ男がルーシィに声を掛けてきた程だ。
ナツは未だ姿を現さない。そろそろ待ち合わせの時刻になってしまう。「ナツだし仕方ないか」なんて考えながらルーシィは人だかりを注意深く観察する。やはりあの桜色と鱗模様は見つからなかった。
辺りを見回すルーシィの肩に、突然手が置かれた。慣れ慣れしい行為にまたナンパかと嘆息。語気を荒めに振り向いた。


「ナンパなら他所にしてくれない? 生憎連れが居るーー」「ナンパぁ? おいおいルーシィ、自意識過剰もほどほどにしろよな」

「ナ、ツ……?」


振り返ればそこにはナツの姿があった。自意識過剰もほどほどにしておけと失礼な事を言われたが、残念ながら今のルーシィにお得意のツッコミいれる余裕などなかった。
ナツの服装がいつもと違ったのだ。幼い顔立ちに良く合った、なかなかセンスの良いコーディネートである。
服のセンスもそうだが、ルーシィの目線はある一点に集中していた。それはナツの首、普段の鱗模様のマフラーとは違い、黒を基調とした赤いラインがポイントのマフラーを着用している。
ーーそれはルーシィが編んでプレゼントした、例のマフラーだった……。


「ナツ……服、どうしたの?」

「ああ、ミラに選んでもらったんだ! 何着ていけば良いかわかんなくてよ」


あっけらかんと笑顔で言うナツ。それとは対照的に、ルーシィは熱が冷めていくのがわかった。
ルーシィはてっきり、ナツが自ら進んでマフラーを選んでくれたのだと思ったのだ。だが彼はミラジェーンに服を選んでもらったのだと語る。つまり、ミラのコーディネートにたまたまルーシィのマフラーが合ったから身に着けているだけ……ルーシィはそう解釈した。
「さすがあたし! ミラさんのコーデに取り入れてもらえるなんて……」などと、必死に自分を慰めた。


「そりゃそうだろ。このマフラーに合わせて洋服選んでくれって頼んだんだからな」

「ーーえ?」


ルーシィは耳を疑った。今のナツの発言からすると、マフラーをしていきたいからミラにコーディネートを頼んだという事になる。
心臓がバクバクとうるさい。夢なら覚めないで欲しいと思った。


「こういう時じゃないと着けらんねぇと思ってさ。ギルドじゃ暴れるし、クエストなんか戦うだろ? せっかくルーシィがくれたんだ、ボロボロにしちゃもったいねぇじゃん!」


気持ちいい位満面の笑顔で言うナツ。大切に思っているからこそ、彼は今までルーシィのマフラーを着けていなかったのだ。
ナツの思いもよらぬ厚意に、うっかりルーシィの目頭が熱くなる。冷めていた熱が急速に上昇していき、すっかり体の芯まで温かくなる。心がぽかぽかとしていた。
潤むルーシィの目を見て、心配したナツが慌て始める。「腹でも痛いのか!?」なんて、見当違いな事を聞いてきた。


「なんでもない! それより、早く行かないとごはん無くなっちゃうわよ!」

「マジか!? じゃあ早く行かなきゃなルーシィ!」


ナツがルーシィの手を引き走りだす。
喜びを噛み締めていたルーシィは、これから食べに行くというのに、何故か妙な満腹感を覚えていた。









うめ子さまの愛してるを3回で(移転後:Love×Straight=??)より5000hit記念小説を強奪しました。

うぉー!!そうきたか!
手編みマフラープレゼントとは!そしてそれをデートに着けてきちゃうナツとは!!
ちょ、ちょっとぉ!反則でしょ!惚れるでしょ!!下げて上げて翻弄しすぎ!
いやぁ、さすがうめ子さま…萌え設定が半端ないです…。たにし涎垂れちゃった。
そして私服ナツにとことん弱いたにし、さっきからまともに画面が見れません。想像しては耐えて想像しては耐えての繰り返し!だー、この文章書くのにどんだけ時間かかるってんだ!?


5000hitおめでとうございます!これからも応援しています!!


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