ギルドでルーシィの背中を見つけた。
「今日は暑いし、プールで泳ごうぜ!」
「はぁあ!?何、いきなり!?」
「ルーシィ、オイラの超飛び込み台好きだもんね」
「好きじゃないわよ!」
「オレの方が好きだよな!」
「はぁっ!?あ……火竜の泉のことね…あんたの発言怖いわ…」
「あん?」
朱に染まったルーシィのうなじに、なにやら赤い跡が見えた。
「おい、ルーシィ。首赤くなってんぞ」
「え?あ、やだ。虫さされかしら」
よく見ると少しだけ膨れている。
「こういうのって爪で跡つけたくなんだよな」
「ナツ、それ古いよ…」
手を伸ばして首に触れると、しっとりして滑らかな感触だった。
「お?」
「や、ちょっと!跡つけんな!」
振りほどかれて口を尖らせる。背後の何かにぶつかって振り向くと、隣のテーブルでマカオとワカバが目を丸くしてこっちを見ていた。
「お、おい…、ナツお前とうとう!?」
「うなじにって…後ろからか…」
「へ?何をだ?」
「あれを付けたのはお前なんだろ?」
ハッピーと話すルーシィのうなじを指し、ワカバが言う。ナツの高性能な目には、少しだけ付けた爪の跡が見えた。
「おお、そうだけど…」
「おーし、もう何も言うな!わかったから!」
勝手に自己完結して頷く大人達に、置いていかれたナツはきょとん、と目を瞬かせる。
「これでナツも大人の男だな!」
「大人?」
「そうだ!…で、どうだった?ルーシィちゃんは?」
にやにやと二人はナツを促す。
どう、とはどういう意味だろうか。とりあえず答える。
「しっとりしてた」
「おいおいおい!また艶かしい表現を!」
「んですべすべしてた」
「おうおうおう!昼間っから言うなぁ、ナツ!」
二人は訳のわからない沸き方をしている。今日は特別暑いし、頭の中がおかしくなったんだろうか。質問の意味はわからなかったが、文句を言われなかったから返答としては正解だったんだろう。
「で、なんて?」
「何が?」
「好きだって言ったんだろ?」
「へ?」
「おいおいナツ…ヤるだけヤッて気持ち伝えてないなんて最低だぞ?」
「そうだぞナツ。もう触らせてくんねぇぞ?」
よくわからないが、ルーシィに跡を付けるのが好きだと言わないと、もう二度と触らせてくれない、と。
「…言ってくる」
「おお!がんばれ!!」
「それでこそ男だぞ!」
ルーシィの背後に再び立つ。
「ルーシィ」
呼びながら首に触れる。
「もう!やめてったら!」
また振り払われた。好きだって言ってないからか。
「ルーシィ、好きだ」
「はいはい……え?」
ルーシィの声が裏返る。勢い良く振り返って、大きな目を見開いてこちらを凝視した。
「い、今、なんて」
「好きだ」
もう一度、言葉にする。
ぼむ、とルーシィが真っ赤に染まる。あうあう、と言葉にならない音声を紡ぐ喉の下、鎖骨の付け根に、一層赤い虫さされを発見して。
好きだって言ったんだから良いんだよな、とナツは右人差し指でそこに十字に跡を付けた。
ナツの行動に目を点にしたルーシィが問いただした結果。
マカオとワカバはプールの底に沈んだ。