カボチャの上部にペティナイフを差込み、円形にくり抜く。手を突っ込んで中身を掻き取ると、ぐじゅり、とした手ごたえがなんだか気持ち悪い。
「何やってんだ?」
真剣なルーシィの背中に、のほほんとした声がかかる。
振り向かなくてもわかるその持ち主に、手の中の種を投げつけようとして――止めた。避けられたら部屋を汚すことにしかならない。
代わりに振り向いて視線を投げる。
「あんた達が何しに来たのか知りたいけど。ハロウィンの準備よ」
ナツとハッピーは椅子に座ったルーシィの手元を見下ろして、合点がいったように頷いた。
「ジャックオランタンだね」
「あー、もう三日後だもんなぁ。今年は何に仮装すっかなぁ」
「あんた達、仮装すんの?」
仮装と言えば子供達の仕事だ。半ば呆れて、それでもナツ達らしくて、ルーシィは苦笑した。
「当たり前だろ!妖精の尻尾は皆仮装するぞ!」
「え?」
「ルーシィ、知らなかったの?ギルドでハロウィンパーティするんだよ」
お菓子をねだって家を訪ね歩くわけではないらしい。仮装パーティというやつか。
ルーシィは自分が魔女の格好をして参加する様を思い浮かべてみる。
うん、いいじゃない、あたし何でも似合っちゃうし。
これが終わったら準備しなきゃ、とカボチャに向き直る。
ナツとハッピーはその様子を上から横から、興味深げに覗き込んできた。
繊維が残らなくなるまで掻き出して、カボチャの顔を正面から見据える。
クレヨンの線を確認して、なぞるようにナイフを突き立てると、ハッピーが何かに気付いたように声を上げた。
「ねぇ、ルーシィ…そのカボチャ、ナツに似てない?」
「え?」
「オレ?」
カボチャの顔はもちろんルーシィが描いたものだった。何の気もなく描いたが、吊り目といい、牙といい――言われてみれば、ナツに似ている。
「勝手にカボチャにすんなよ。著作権の侵害だな」
「いや、たまたまだし!それ言うなら肖像権だし!てか勝手に部屋に入るな!」
「たまたま?ルーシィ、たまたまナツを描いたの?」
「だからナツじゃないってば!」
ハッピーの言葉に言い返すと、なんだか酷く恥ずかしくなってきた。顔を赤くして、ルーシィはカボチャに突き立てたままのナイフを抜き取る。
テーブルの手拭きタオルを掴むと、表面のクレヨンを拭い取ろうとしてカボチャに押し付ける。と、横から手を掴まれた。
「何すんだよ」
眉間に皺を寄せて、ナツが責めるような視線を向けてきた。
ルーシィは少し驚いてタオルから手を離す。
「か、描きなおすの!」
「いいじゃねぇか、オレで」
「だ、だからナツじゃ…」
「なんかオレ消されるみたいで嫌だし」
そうですか。
思わず半眼になって見返したが、ナツの表情は変わらなかった。
カボチャを見ると、消せなかったクレヨンの線が「オレはナツだ!」と言っているようで。
ふっ、と息を吐き出して、ルーシィはナイフを手に取った。
「ナツじゃないからね」
「でも似てるよ」
「ナツじゃないの」
「オレでも似てると思うぞ」
ナツじゃない、ナツじゃない。言い訳のように口にしながら、ルーシィはクレヨン通りにカボチャに命を吹き込んだ。
「完成!」
「おお!すげぇ!」
「ろうそく入れてみて!」
ろうそくにナツが火を点けて。部屋の明かりを落とすと、暖かな光が満ちた。
「やっぱり似てるね」
「かかか、オレカボチャだ!」
嬉しそうに笑うナツとハッピーと、テーブルの上で口角を上げたナツカボチャを順番に見やって、ルーシィも目を細める。
天然の火はゆらりと揺れて、見飽きない。
くるり、とナツがルーシィを振り返った。
「ルーシィ、ありがとな!」
「だ、だから…」
ナツじゃない、と言おうとして、その笑顔に飲まれて。
染まった頬はろうそくの明かりに溶けた。