会えない夜に






ナツは幽兵退治後、宣言通りルーシィが現れないのを確認して、変身を解いた。
ポケットから携帯を取り出し、ぽこん、と開く。

「ナツ?何してんの?」
「ん?…メール」

時刻は24時を回っている。返事は返って来ないかもしれない。それでも良かった。
メール画面を出して、ナツはぽちぽちと打ち出す。
こんばんは…違うな。ルーシィへ…って手紙じゃないだろ。
書いては消して書いては消して。ナツは眉間に皺を作った。
待てよ。メアド知ってすぐに送るのってどうなんだ?
メール画面を閉じて、携帯を閉じる。ポケットに戻しかけて……また開いた。
電話帳。バックライトに浮かぶ、ルーシィの名前。

「……」

結局またメール作成を選択して、打てたのは飾り気のない、二文字だけ。

『おい』

手に持ったまま歩き出すと、茶虎のハッピーが横を跳ねるように付いて来た。

「ルーシィに?」
「んあ…まぁな」
「ルーシィ、明日早いから来ないって言ってたじゃない。もう寝てるんじゃないの?」
「そうだな…でもなんか起きてる気がする」

それはほとんど願いに近かったが、言ったと同時に、右手の携帯が震えた。

「ほらな」

画面に表示された名前に、口元が緩む。肝心の内容は、

『なに?』
「…素っ気ねぇな。まぁいいけど」

用件を打とうとして、ナツはそれが無いことに気付いた。
あれ?なんでメールしようと思ったんだっけ?
仕方が無いので『今何してる?』と返す。

「…早ぇな」

すぐに携帯が返信を告げる。さすが偽とは言え女子高生。ナツはルーシィの細い指先がキーを滑る様を想像して苦笑した。

『本読んでた』

絵文字も疑問符もない一見つまらないメールだが、ルーシィが打ったと思うと、それだけで温かく感じる。ナツは上がりそうになる口角を引き締めて、足を一際ゆっくりと踏み出した。
別にナツはメールが好きなわけではない。こんな時間だし、大した用事もない。
家に着くまで。家に着いたら止めにしよう。
てかこいつ、本読むくらいなら来れば良いのに。

『お前本ばっか読んでんな』
『あんたは読まないの?あ、聞くだけ無駄だったわ』
『なんか腹立つな。読まねぇけど』
『授業中も寝てばっかりだし、またリサーナに怒られるわよ?』

ぽんぽんと返ってくるメールの中の、リサーナの名前にむっとした。ルーシィから、リサーナとの関係を示唆されたようで。
リサーナはただの幼馴染だよ。打ってから、これじゃ話が繋がらないし弁解しているみたいだと気付いて消した。
顔を上げると、街灯に照らされて、ルーシィとぶつかった角が見える。

『お前だってしょっちゅう欠伸してるじゃねぇか』
『あんた狸寝入りしてたわけ?』
『得意技だ』
『威張るな!』

ルーシィの声が聞こえたようで、ナツはくすりと笑いを零した。

「楽しそうだね。何の話?」
「あー…何の話だろ?」

とりとめがなく、ただの世間話にもならない。
形にならない。言葉にならない。ふと、ナツはルーシィと自分の関係のようだ、と思った。
敵だと言い張っているルーシィ。手を広げているのに待ちぼうけを食わされている自分。いつか飛び込んできてくれると信じて疑っていなかったが、違うのだろうか。ルーシィはナツの期待を裏切るのだろうか。父親と同じように。

「ナツ?」

ぼんやりしている間に、角を曲がったようだ。もう、家は見えている。
電気の消えた、誰もいない家。
親指でメールを打つ。

『今日、会えなくて寂しかった』

送信ボタンを押して。送信画面が消えるまで。ナツはその場に立ち止まって画面を見つめた。
きっと、これが送りたかったんだ。
家に入って、リビングの不必要な電気を点ける。ナツは携帯を握り締めて、自分の部屋に向かった。
それまでの返信速度が嘘みたいに、携帯は黙りこくっている。ベッドにうつ伏せに倒れこむと、壁の時計が1時近くを指していることに気付いた。
ハッピーはナツの様子に突っ込むことなく「おやすみ」と静かに言って椅子のクッションに丸くなった。
返ってこないか。
諦めて目を閉じようとしたとき、

「!」

ぶるる、と携帯が震えた。ぱか、と開くとルーシィの名前。

『何バカなこと言ってんのよ。明日遅れないでよ。おやすみ』
「……」

バカなことだったんだろうか。ナツが、ルーシィに会いたいと思うことは。
ナツは『お前もな。おやすみ』と返信して、部屋の電気を落とした。携帯を枕元に置いたまま、目を閉じる。
突き放したような文面だったが、ナツはなんだか温かい気持ちだった。ルーシィにはあのメールを無視することだって出来たはずだ。触れないことだって。
今夜は会えなかったけれど、明日になればまた会える。そう思って、ナツは携帯を撫でた。






初メール。
ハッピーはグレイの居場所を聞き出して欲しいと思いつつ、ナツの心情を慮って口を出しません。頼れるのは自分だけ、と思っているかもしれませんね。
無敵のヴィーナス(移転後:桜色)のかおりさまより挿絵頂いちゃいました!ありがとうございます!



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