妖精学園騒動記



どの世界どの時代にも卓越した能力の持ち主が存在する。
だが、集団で生きる中でその特殊な能力は畏怖され、疎まれ、能力者たちはその集団の中に溶け込むことが困難となる。
ある者は能力をひた隠し、ある者はそれも出来ず一人で生きる道を選ぶ。

誰ともその苦痛を分かちあうことができないまま、他人と馴れ合う事を拒んで生きる道を多くは選んでいくのだ。

だが。

そんな能力者を受け入れる施設が、秘密裏に存在していた。
表向きはただの学園施設。
しかし、そこで生活をする者は皆、何かしらの卓越した能力を持つ者たちばかりだった。
歴史は古く、その学園の存在する土地の者たちだけは、能力ある者を受け入れ、一般の民と区別することはなかった。

それ故、ここには一風変わった能力者たちが自然と集まってくる。
大人も、子供も。

その施設を、妖精学園と人は呼ぶ。



商業都市マグノリア。
人で賑わい活気に溢れるその街の中、一際目立つ金の髪の少女が歩いていた。
貿易も盛ん故に様々な人種が行き交う街だが、金の髪は特別珍しい。
髪と一緒にはためく背中のカラー、翻る紺のプリーツスカートが白い足を艶めかしく印象づける。
全身を包むセーラー服が、彼女を学生だと深く印象づけたが、この街で学生が向かう場所は一カ所しか存在しない。

「ママ、見て、金の髪」
「あらあら、見ない顔ね。妖精学園の新入りさんかしら?」

この街の住民と思しき親子とすれ違い様そんな会話が耳に飛び込んできて、ルーシィはゆるりと微笑んで幼子に向かって手を振る。
手を振られた幼子は母親の手を繋いだままあいている方の手で思い切り無邪気に手を振り返してくれた。
目線がかちあった母親も、にっこりと笑って手を振ってくれる。

空は快晴。
空気もどこまでも澄んでいる。

今までの人生でこんなにわくわくした気分は、初めてだった。

やりたくもない、いたくもない居場所にしばりつけられる日常から解放されて。
これからは、自分らしい生き方ができるのだ。
もう誰からも、友人たちをののしられることもなく。
そんな彼らと一緒にいる自分を侮蔑する目からも解放される。
スカートに通したベルトに下げられ、じゃらじゃらと音を立てる幾つもの鍵に触れるように一瞬だけ指先を走らせたルーシィの唇は、先ほどからこぼれんばかりの笑みをたたえていた。

はやる気持ちを抑えるようにたどり着いた施設は異常に大きく、流石にルーシィは足を止めて門の前でごくりと喉を鳴らした。
この門をくぐらなければ、始まらない。

特別な能力がある者だけを受け入れる特殊な学園施設という情報だけを頼りにここまで来たのだ。
どうすればいいかまでは考えなかった。

一般の学園のようにテストがあるのだろうか、誰か強い能力の持ち主と戦って勝たないと入れないのだろうか。

今更そんな疑問がぐるぐると頭を回り始める。
そうやって考え込んでいると後ろからくすくすと笑い声が聞こえてきた。

「やれやれ。勢いだけで飛び出して。お姫様はこれだから困るね」

振り返るとこの暑い中、汗もかかずにスーツを着こなす青年が一人、おかしそうに笑いながら立っている。
ルーシィはその青年と腰にぶら下げた鍵を交互に見て小さく溜息をついた。

「ロキ…呼んでもいないのに出てこないでっていつも言ってるでしょ」

呆れたような声色でそう言うと、ロキと呼ばれた青年は、からかうように肩をすくめて見せる。

「大事な君に何かあったら困るからね。僕が中の様子見て来てあげようか?」
「いい…っ、いいわよ…っ!自分でやるから!」
「足踏みしてるみたいだから言ってるのに、意地っ張りだね、ルーシィは」

金の髪を指先に絡めるように撫でる大きな手のひらを困ったように払って、ルーシィは頬を膨らませる。
その姿に更に言葉を綴ろうとしたところ、閉じられていた門が重い音を立てて動き始めた。

「あら?」

中から出てきたのは、腰までの銀髪が印象的な美しい女性だった。
学園施設だと聞いているが、夜会にでも行くような美しい黒いドレスを纏っている。
それが余計に髪の色を引き立てて美しさを際だたせていた。
ルーシィは思わず背筋を正してその女性に向かう。
あからさまな緊張を表したルーシィを見て取ると、その女性は目を細めた。

「カップルでこの学園にご用のある方は珍しいわね」
「は…え?こいつですか?違います違います!」

カップルと言われたことに慌てて否定をし頬を染めたルーシィはロキを振り返ると腰に下げていた金の鍵を一つ、彼に向けた。

「だから勝手に出てこないでって言ったのに!早く戻りなさい!」
「…はいはい」

吸い込まれるように姿を消した青年のいた場所と、ルーシィが手にしていた金色の鍵を見つめて、女性は得心がいったというようにルーシィを見た。

「黄道12門の鍵…星霊を使う能力者…ね」
「は…はい、ルーシィっていいます。私、この学園に入りたくて…っ」
「ふふ、緊張しなくて大丈夫よ。能力者は無条件で受け入れるのがこの学園の体制なの。私はミラジェーン。宜しくね」
「はいっ、宜しくお願いします!」

ぱっと輝くような無邪気な笑顔に、ミラジェーンもつられるように笑った。

2時間ほどかけてメインとなる学生校舎他、敷地内に存在している娯楽施設や生活スペースなどをミラジェーンと共に見て回り、学園の責任者であり、校長でもあるマカロフへの挨拶を済ませ、そこで明日から学園へ通えるよう書類上の手続きを済ませた。

一通りやるべき事を終え、校長室を出たところで、ミラジェーンが声をかけた。

「…ということで、説明は今した通りなんだけど、学生が自分の能力を生かした仕事をするためには、パートナーが必要なの。誰か紹介しましょうか?」

この学園施設では、まだ成人していない学生たちの生活は、食に関しては面倒をみてくれるらしいが、金銭を得る仕事となると、大人と同じように働かねばならない。
だが、能力を使える特殊な者が集まる学園というところから、その能力にふさわしい…というより、一般の技能では片づけられない仕事が、ここには舞い込んでくる。
そんな仕事を斡旋し、能力を使う者たちに紹介するのもミラジェーンの仕事の一つだった。

「ルーシィと近い年の女の子たちもここにはたくさんいるから…そうね、まだパートナーを決めてない女の子ならレビィあたりと合いそう…」
「あ、ミラさん、待ってください、そのお話なんですけど…」

ミラジェーンの話を途中で遮り、ルーシィは思い切ったように口を開いた。

「ここに、特殊な炎を扱う能力者がいるって聞いたの。できれば、その人と組みたいって思ってるんですけど…」

その言葉に、明らかにミラジェーンは顔色を変えた。

「ミラさん?」
「あ…あぁ、ごめんなさい」
「…?炎を使う能力者は…パートナーもういるんですか?」
「…いえ…いるといえばいるけど、いないわね…」

言葉の意味を探しあぐねてルーシィが首をひねる。
ミラジェーンは困ったように息をついた。

「彼は…ナツというのだけれど、あまり人となれ合わなくてね…いつも同年代の男の子と喧嘩ばかりしてるのよ。今まで誰とも組んだことないし…パートナーになるのは難しいんじゃないかしら?…でも…」

そう言いながら、窓の外へ視線をやって、言葉を続ける。

「交渉したいなら、今の時間なら屋上で授業さぼって寝てる頃じゃないかしら」

その言葉に、ルーシィが反応して嬉しそうな笑顔を浮かべ、踵を返すように屋上へ向かって走り出すのを見て、ミラジェーンは複雑そうな表情を浮かべる。

今まで、彼の荒くれた心を溶かした者はいなかった。

彼女なら。

ルーシィなら溶かせるような気がする。
ナツも大事なこの学園の生徒の一人なのだから、大事な仲間なのだから、他の仲間とも溶けこんで欲しいと常に願っていた。

彼女なら、この願いを叶えてくれるような、そんな気がしたのだ。

「ふふ、星霊使いに炎の使い手か…案外いいパートナーになるんじゃないかしら?」

楽しげに笑い声を漏らしたその背に流れる銀の長い髪を、窓から入り込んだ風が優しく揺らした。

屋上に続く階段を駆け上がり、ドアを開く。
生ぬるい風が金の髪を巻き上げるように揺らしたが、今はそんなことは気にならない。
あまり広くはないその屋上のど真ん中に、ルーシィが探していた人物はいた。
大の字に寝転がり、どうやらガチで寝ている様子だった。

しかし、一番陽の高い時間を過ぎているとはいえ、ここは直接陽があたる。
靴を履いたままなのでよくは分からないが、下のセメント部分はそれなりに熱を持っている筈だが熱くはないのだろうか。

そろそろと近づいて側にしゃがみ込むと、改めて顔をのぞき込む。
炎を使うと聞いていたので体格のがっちりした大男を想像していたが、意外に華奢な少年だった。
寝ているので正確にはわからないが、背丈も自分とはそう変わらないだろう。
桜色をした髪が珍しい。

「…この真夏にマフラー?」

首に巻かれた白い鱗状の模様の入ったマフラーに手をかけると、投げ出されていた指先がぴくりと反応し、ついでものすごい力でマフラーに触れていた手首を掴まれた。

「…っ!」
「…誰だ?お前」

半身を起こして息が触れるほど近づいた顔。
一瞬酷く怒気を放った鬼のような形相を見せたが、一瞬だけだった。
すぐにためらったような表情に変わり、手首をつかんでいた手が離れる。
あまりの勢いに飲まれるところだったルーシィは、負けるものかと言わんばかりに、その目前に右手を突き出した。

「あたしのパートナーになって!」

ナツは一瞬あっけにとられた顔をして、目の前に差し出された白い手と、ルーシィの顔を交互に見やった。

「イヤだ」

返ってきた言葉にルーシィが頬を膨らませる。

「何でよ」
「面倒くせぇ」
「面倒くさいって何よ!失礼ね!」
「兎に角、俺は誰とも組まねぇ。昼寝の邪魔すんなよ。帰れ」

素っ気なく言ってのけたナツはそのままルーシィの存在を無視するようにまたその場に寝転がる。
その反応が面白くないルーシィは、仰向けに寝転がったナツの体の上に馬乗りになった。

「……」

無言のまま目だけ開いたナツの顔を息が触れ合うほど近くで射抜くように睨みつけて、ルーシィはもう一度、一語一語区切るように強く発音した。

「あたしと、組んで!」
「……」

自分を押し通すというか、有無を言わせないと言うか、あまりの強引さに、ナツは紡ぐべき言葉を見失い、次には思わず「分かった」と我ながら耳を疑う返事を返した。

「え?」
「…え?じゃねぇよ。組めばいいんだろ?組むからどけよ、重…」

こう騒がしいと昼寝を続行する気にもなれなくて、体を起こそうとしたナツの首に白い腕が絡む。

「やった〜〜〜!!これで仕事出来る!!」
「っな…!!」

今起こした上半身を再び地面に叩きつける勢いで飛びついてきた体をやっとのことで支えて、ナツは戸惑った。

「…っていうか、さっきから言ってるけど、お前誰だよ」

その言葉にルーシィは体を離してもう一度右手を目前に差し出した。

「あたし、ルーシィ。ルーシィ・ハートフィリア」

その右手を同じように右手でつかむと、ナツはルーシィを下から見上げて、だが、先ほどと違い無邪気そうな笑みを覗かせて言ったのだ。

「俺はナツ。ナツ・ドラグニルだ。お前、面白いな。気に入った」

これが後にこの学園の伝説となるパートナー誕生の決定的瞬間であり、学園始まって以来の波乱の幕開けでもあった。









葉月悠樹さまの星と炎と恋の華より60000hit&70000hit記念小説を強奪しました。


ルーシィ積極的!きゃー!いいなあ、ナツ…。たにしもルーシィに馬乗りになってみたい。って逆ですか、そうですか。
これじゃあナツもメロメロに溶かされちゃいますね。いや、そういう意味の心を溶かすじゃないでしょうが。ナツとルーシィの運命の出会いですよ!会うべくして出会った二人ですよ!
あああ、いいなぁ、ボーイミーツガール!


そして挿絵がこちら!うぉおおお!鼻血出るー!!

葉月さま、60000hit&70000hitおめでとうございます!!


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