「あんたたちも入ってきなさいよ」
風呂上り、多少男の目を気にしてタンクトップとキュロットを着用し、ソファでだらける二人に声をかける。
「ヤダよ、面倒だし」
「なに?」
「…入ります」
先ほどの件があったからか、笑顔一つで言うことを聞いてくれた。
「タオル置いてあるから使ってね」
「へいへい」
「へいは一回!」
「ルーシィ、普通ははいは一回、だよ」
脱衣所に消える一人と一匹を見送って、テーブルの上を片付けようと背を向けた途端、
「ルーシィ、元気になって良かったね」
「そうだな。やっぱルーシィはこうじゃなきゃな!」
耳がかぁっと熱くなった。
なんだかんだ絡んでくるが、きっと元気付けようとしてくれていたんだろう。
(早く、思い出したい。誰よりも早く、二人のことを)
胸がきゅう、と音を立てた。
風呂から上がった二人とまた他愛のない話をして。
すっかり夜が更けた頃、大きな欠伸をして、ナツが伸びをした。
視線を巡らすと、ハッピーはベッドの枕元で丸くなって小さく寝息を立てている。
「さ、寝ようぜ」
「え?ちょっと、あんたは床で寝なさいよ!」
さも当然の様にベッドにもぐりこむナツを慌てて止める。
「大丈夫、大丈夫」
「なにが!?」
「頭打たないように守ってやっから」
「要らないわよ!」
手首をぎゅ、と掴まれて引っ張られる。
思った以上に強い力にバランスを崩し、ベッドの上に――ナツの上に倒れこんだ。
脳が揺れる感覚。
瞬間、『何か』が、いや全てが。体の中に戻ってくるかのような――。
「おっと、あぶねぇな」
ナツの筋肉質な腕がしっかりと体を支えてくる。
「…ルーシィ?」
こちらの反応が無いのに気付いて、ナツが覗き込んできた。
視界の中に、ナツが大きく映る。そう、ナツ、だ。
「ナ、ツ……」
声が上ずった。
「何だ?」
きょとんと見やるナツに、どう説明しようかと考える。
こんな、タイミングで。
(記憶が戻った、なんて…)
気付けば半身を起こしたナツの上に、ほぼマウント状態だった。
かぁあ、と顔が熱くなって慌てて退こうとするが、手首はナツが掴んだまま。
「お、おぉ?」
涼しい顔で、むしろ遊んでいるかのようなナツに、抵抗するのがバカらしくなってくる。
結局拘束が解けないまま、
「…ナツ」
「何だよ?」
「記憶…戻った」
「ふぅん…ん?マジで?」
こくん、と頷いて見せると、本当に嬉しそうな顔で笑った。
そのまま、こつん、と額を合わせてくる。
「…良かった」
ニカッ、と猫目で言われてしまえば、その近さに言おうと思った文句も引っ込んだ。
「ありがとう」
「ん?」
「色々。助かったわ。ナツと――チーム組んで、本当に良かった。もちろん、ハッピーもね」
笑顔でそう言うと、ナツはむず痒そうな顔をして手首を離した。
(…ちょっと残念、なんて)
思った瞬間、ナツの腕に抱き寄せられた。
「ちょ、ちょっと…」
「――オレも」
耳元で聞こえるナツの声は、それは優しくて落ち着いていて。
(普通に、仲間として、よね…?)
強張った全身の力が抜けていくのを感じながら。
暖かい腕の中で、このまま眠ってしまいたい気になった。
「とりあえず、あんたは床ね」
「やっぱそうなんのかよ!?」
「泊めてあげるだけでも感謝しなさいよ!大体、前泊めた時はエルザ達居たでしょ!」
「ちぇ、思い出しやがって」
「ちょっとぉお!?」
「まぁいいか。…なぁ、ルーシィ?」
「なによ?」
「一番初めに、オレを思い出したんだよな?」
「な、ちょ、調子に乗ってんじゃないわよ!」
「そういやなんで記憶戻ったんだ?抱きしめると戻るのか?」
「そ、それは記憶戻った後でしょー!?」