ナツがわからない。
いつも隣に居てくれた。笑ってくれた。
なのに、なんで?

「私じゃ、だめなの?」
「…悪ぃ」
「青が好きって言ってくれたじゃない。仕事だって…あのハンカチだって!私、ナツがプレゼントなんて、初めて見たよ?」
「あれは…」

ナツは視線を空中に泳がせてから、勢い良く頭を下げた。

「悪ぃ!あれ、ルーシィにやるつもりで買ってきたんだ」

その桜色の頭頂部を見ながら、リサーナは耳を疑った。他の人にあげるつもりだった?いや、それよりも、ルーシィに?

「で、でも、ルーシィは…」

エドラスとは違って女の子然としたこっちのルーシィは、幾分儚げな笑顔を浮かべている印象がある。仕事が忙しいのかギルドで見ることは少ないが、いつもグレイと仲良さそうに話していた。二人は付き合っているんじゃないのか?
まさか。
ここ最近のナツの遠くを見るような目と、ギルドで一際大きな声でリサーナを褒め、周りの注目を集めようとする様子が、パズルのピースのようにぴたりと嵌まる。そうだ、決まってルーシィが居る日。
ナツ、ルーシィが、好きなんだ。
何故ルーシィから青色を連想するのかはわからないが、ナツが好きなのはリサーナの瞳の色ではなく、ルーシィを想って…。

「リサーナ?」

黙り込んだリサーナを心配するように、ナツが顔を上げた。

「わ、かった」

そう、わかってしまった。この状況で、自覚しているならナツはルーシィの名前は出さなかっただろう。いや、ルーシィが好きだから応えられない、とバカ正直に言うはずだ。
きっと、ナツは自分がルーシィを好きなことに気付いていない。
泣きたいのに笑えてしまう。いや、もう泣いているけれど。

「わかったよ、ナツ」
「リサーナ」

口角を微かに上げて見せると、ナツが掴んでいた腕をゆるゆると放してくれた。
リサーナは背を向けて歩き出す。

「リサーナ、オレ…!こんなこと言う資格ねぇかもしんねぇけど…お前の幸せを願ってる」
「…ありがと、ナツ」

声が震えてなかっただろうか。肩が揺れてなかっただろうか。できるだけ、今の自分にできるだけの虚勢を張って肩越しに手をあげる。

「また、ね」
「…お、う」




ミラが家に帰ると、先に帰宅していたリサーナが、ダイニングテーブルで一人空になったカップを弄っていた。エルフマンは今日は泊まりの仕事で、帰って来ない。
リサーナの赤くなった目元を見て、ミラは胸を詰まらせる。
ナツと散歩してくると言ったきり、戻ってこなかった。やはり、止める、べきだった。
ミラは下唇を噛んで、努めて明るい声を出した。

「ホットミルク、飲む?」
「うん」

返事は思ったよりもはっきりしていた。ミラは心の中で首を傾げる。告白して振られたのかと思ったが、違うのか?
手早く暖めたミルクを二つのカップに注ぎ、一つをリサーナの前に置く。角を挟む位置に座り、カップに両手を添えてリサーナが口を開くのを待った。

「ミラ姉」
「なぁに?」
「気付いてたんでしょ?」
「何に?」
「ナツが、ルーシィを好きなこと」

責めているわけではない。ただ確認したいのだ、とその視線は物語っていた。

「ナツがそう言ったの?」

意外なことだった。ミラには、ナツは自分の想いの在り処がわからないように見えている。ルーシィへの想いを自覚して尚且つこんなにこじれているのならば、ミラが思っているよりずっとナツは不器用である。

「ううん、ナツは…多分気付いていないけど。あのハンカチ、本当はルーシィに買ってきたんだって。それ聞いたら…わかっちゃうよ」
「リサーナ…」

表面上驚いた振りをして、ミラは自分の計画が行き過ぎていたことを痛感する。結局自分のやったことは、リサーナを期待させるだけだった。
眉根を寄せるミラを斜めに見て、リサーナは寂しそうに笑った。

「ねぇ、いつから?」
「…そうね、ルーシィのことは…多分、初めから気に入ってたんだと思うわ」
「初めにチーム組んだの、ルーシィだけだったらしいね」
「そう…ルーシィは…ナツにとってからかいがいもあるし…なんだかんだ怒っても突き放さないし、居心地良かったんでしょうね」

その居心地の良さも、今となってはナツの側にない。その切欠を与えただけとは言え、現状を引き起こしたのはミラ自身だ。リサーナにさえも、笑顔が無い。
今更ながら、ミラは自分のしたことを後悔し始めていた。

「ミラ姉は…ナツと私のこと、どう思ってた?」
「私はリサーナの味方よ、いつでも」

リサーナの青い瞳を見つめて、正直に告げる。この思いだけで、行動してきたのだから。もちろん、リサーナがまだ諦めないなら協力するつもりでいる。

「ナツは自覚してないみたいだし…このまま忘れてくれるかも…」
「ナツはそんなに器用じゃないよ」

リサーナがナツを信じきった目で、反発する。その言葉に、全てが詰まっていた。
ナツは好きな人がいながら他の人を好きになれるほど、器用じゃない。
リサーナの目は赤かったが、強い光を湛えている。それを見返して、ミラは自分の知らない間に妹が大人になっていたと気付いた。

自分の出る幕など、初めから無かったのだ。

「そう、ね。ごめんなさい、リサーナ」
「ミラ姉が謝ることないよ。これは私とナツの問題だもの。ねぇ、ミラ姉」
「なに?」
「今日、一緒に寝てくれる?」
「もちろんよ、リサーナ」

ミラの返事に、リサーナは嬉しそうに笑った。






魔人ミラ終了のお知らせ。
いやぁ…ちょっと焦りすぎたかな。もう少しゆっくり時間をかけて外堀を埋めれば…ってしているうちにナツとルーシィが自覚しちゃいそうだもんな。やっぱナツルーを引き剥がすことなど無理なのです!
「ミラ姉が謝ることないよ」って…痛ぁーい!



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