「けっ、けど、コイツならこれで止められる!」
ケーキ男が魔法を発動した。和菓子よりは洋菓子派だと見分けたか、さっきと同じショートケーキやチョコレートケーキ、チーズケーキにプリンアラモードも出現する。
エルザは素早く両手を広げた。電光石火、閃く。
「もう効かん!すでに対策できている!」
「なっ、何ぃ!?」
「え、なになに?何が起きてるの?」
ハッピーはルーシィの疑問に答えようと口を開いたが、それより早くエルザが高々と宣言した。
「必殺・お持ち帰りだ!」
本職かと見紛うほどの手際で、 白い箱にケーキが詰められていく――。
「これでもう惑わされることはない!」
「そんな手を使うとは……!」
彼女とそれに慄く男達の姿は、こんなに近くに居るのにまるで別世界のようだった。残酷に冷静なテンションで、グレイが呟く。
「必殺って誰を殺すんだよ」
「そらぁもちろん店主……いあ、客?」
「客って誰だよ」
「知らねえよ」
グレイとナツは圧倒されたようにぼそぼそと会話して、ルーシィは小さく呻いていた。ハッピーはすでにぐうの音も出す気がない。
こちらとは切り離された舞台で、エルザが男達を煽った。
「箱はまだまだあるぞ!」
「こっ、こっちだって、なあ!?」
「そっ、そうだ、ケーキくらいまだ出せる!その程度の箱数、すぐに上回ってやるよ!」
「……あい?」
頭に疑問符が点滅する。再び現れたケーキ達を懸命に(しかし口元には笑みを浮かべながら)箱詰めするエルザが不思議で、ハッピーは目を瞬かせた。もう相手の技を封じたのだから、いつもの制裁で依頼達成、といけるはずだ。なぜまだ、相手しているのだろう。
ナツも同様の疑問を持ったらしい。促す。
「おいエルザ、遊んでねえでさっさと倒せよ。そしたらこっちも動けるようになんだから」
「倒したらケーキが出てこなくなるだろう?」
「もう十分だろ!」
「もうちょっとだけ待て、今からお前たちの分も確保する」
「今までのお前一人で食う分かよ!?」
ナツは気長な質ではない。ツッコミは苛立ちとなり、そのまま炎となって表れた。
「あっつっ!?」
ルーシィの服を再び犠牲にして、ナツの左手が解放される。
「おっ、やった」
「何してんのよ!?禁止って言ったでしょ!」
「よし、頭下げとけ、ルーシィ!」
「これ以上無理!」
炎が縦に伸びるように空を舐める。すわ反撃か、と思われたその瞬間、
「えっ?」
地面が崩れた。
「あ」
いや、地面などではなかった――ナツが傾いたのだ。つまり。
塊は、崩壊していた。
ずるりと腹が滑る。久しく忘れていた自由に、ハッピーはまず不安定さだけを認識した。
「やっとか!」
「おっしゃあ!」
すぐさま立ち上がったグレイに転がされながら、ナツがルーシィの肩を掴む。ハッピーは彼が彼女の身体を持ち上げるのを、頭の上から見ていた。
「まっ、待って!服がボロボロで……!」
「ん?」
それはとても、大きく、大きく揺れた。
その存在感と迫力に圧倒されて、ハッピーはあんぐりと口を開けた。
ナツが引き離したルーシィは上半身に何も着ていなかった。正確には腰のあたりに布が巻き付いているが、目に入らない。
白い肌はナツの髪に絡まった団子に似ている。だがそれは団子というよりも。
「でかいまんじゅう……」
「いやあああああ!」
「へぶっ!?」
ルーシィの腕が唸りをあげてナツの頬を捉える。だるま落としのように支えを失って、ハッピーは一瞬空中に浮いた。
ルーシィの真っ赤な顔の向こうでは、ケーキ男を氷漬けにしたグレイが、接着男と共にエルザに殴られている。
男は全員――そう、全員だ――地面に這いつくばることになるのだろう。往復ビンタの要領で戻ってきたルーシィの手に、ハッピーは覚悟を決めた。