ナツはギリギリと歯軋りしたが、切り替えるように大きく息をした。その目はもうエルザではなく、逃げゆく男達を見据えている。
「ハッピー!」
名を呼ばれて、ハッピーはこくりと頷いた。ナツの横顔だけで、意図が読める。
「あい!行くよ!」
「え、ちょ、待って……」
ルーシィが何か言いかけたが、スルーして。
ハッピーはナツ達に、体当たりした。
「ひっ、きゃあああ!?」
「うぁ、いっ、いてっ」
「よぉおし、このまま……おえっ気持ち悪……」
だんごになった彼らを転がして、エルザの横すれすれを通る。軽い傾斜で自走するが、勢いを付けるためにハッピーはさらに押した。石に引っかかったせいでバウンドして、ルーシィが泣き声をあげる。
「止めてぇええ!」
面白くなって、ハッピーは何度か小刻みに彼らを押してみた。その度にルーシィはどこか緊張感なくきゃーだのわーだの喚く。
「アンタ遊んでない!?」
「あはは、あ」
手が滑った。
勢い余ってナツ達を追い越す。つんのめった体勢を無理やり起こした目の前には、甘い魔力を放つ男の背中があった。
「わあ、どいてー!」
「え」
「おわああああ!?」
何故だか、一番大きく叫んだのは接着男だった。ルーシィばりにパニックを起こす。
「わあっ、うあっっ、あああー!……って、猫か」
「ふぎゅ!」
ケーキ男に激突して視界が歪む。みにょ、と頬が引っ張られる感覚に違和感を覚えた。
「あい?」
「あれ?」
「ん?」
ゴロゴロと、ナツ達が横を転がっていく。それを目で追うことすら、満足に出来ない。首が動かせない。
ハッピーは男の背中にくっ付いていた。
「おい、何してんだよ!」
「いや、ちょっと驚いて……」
「さっさと剥がせ!」
男達の言い合いに、自分の状況を飲み込む。即座に、ナツから指示が出た。
「ハッピー、飛べ!」
「あ、あい!」
喋りにくい口を動かして、翼を発動する。ハッピーにとっては慣れ親しんだ上昇感だが、ケーキ男にとっては初体験だったのだろう、びくりと背中が強張るのを感じた。
「おい、どこ行くんだ!」
「し、知るか!猫に訊けよ!」
「よしハッピー、そのまま押さえてろ!」
ちょうど上を向いたナツが、すぅ、と息を吸う。それを目に留めて、ハッピーは青褪めた。ほとんど間を置かず、炎が一直線に自分に向かってくる。
「ひぃっ!」
「わああああ!?」
「避けるな、ハッピー!」
「避けるよ!」
避けないわけがない。ナツは二、三度炎を投げてきたが、ハッピーがそのどれも華麗に躱してやると、悔しそうに顔を歪めた。