そんな日が来なければ良い、と思ってしまって、ハッピーはぶんぶんと首を振った。ナツの手が、ぽふ、と頭に乗せられる。
「寂しいか?オレもだ」
「っ」
「ずっと一緒だったもんな」
ずっと――生まれてから今までのことが、走馬灯のように頭を駆け抜けていく。寒い夜はナツの体温に守られていた。熱い日は一緒に水遊びした。喧嘩した日もあった。仲直り出来なくて泣いた日もあった。仕事も遊びも、常に一番そばにいた――。
温かくて、大好きな、桜色の笑顔。
ぶわ、と涙が溢れた。
「ナツ!」
「ハッピー!」
がし、と抱き合う。思えばこの感覚も、幼い頃とは全然違う。
丸みのあった身体は力強い筋肉に取って変わり、声だって低くなった。言動の子供っぽさなど、関係がない。彼はもう、立派に大人になっていた。
きっと、自分も成長しているのだろう。そしてこれからも成長して、いつしか同じように、一生を添い遂げる相手を得たいと思うのだろう。
一人と一匹――いつまでも一緒の道を歩んでいくわけではない。
それでも。
ハッピーは声を震わせた。
「オイラ、オイラ……ずっと、ナツの相棒だよね?」
「当たり前じゃねえか!」
「あい……!」
涙がナツの服に吸い込まれていく。
『当たり前』と言ってくれた。叱咤するようにも聴こえるその力強い声音が、何よりも心強い。
ハッピーが今ある幸せを噛み締めていると、宥めるように背中が撫でられた。
「一緒に寝られねえけど、ちゃんとハッピーの寝室作るからな!」
「あい!……あい?」
呼吸が止まる。
顔を上げる。
首を、傾げる。
「……しんしつ?」
「寝室。部屋、別にしねえと」
ハッピーはもう一度、確認してみた。
「一緒じゃダメって、布団のこと?」
「お、おう。やっぱほら、色々あるし、マズイだろ。一緒は」
ナツは顔を赤くしている。ハッピーはしばしそれを眺めて、またぎゅ、と抱きついた。
「ナツ、大好きだよ!」
「おう、オレもハッピー大好きだ!」
なんだ。一緒に暮らせるんだ。
それどころか、ナツの頭の中には、初めから別に住むという選択肢がなかったようだ。
ずっと相棒、ずっと一緒――。
元気付けるような、しっかりとした声が耳に届く。
「別って言っても、同じ屋根の下だからな」
ハッピーは彼の胸に頭を擦り付けて、ぐい、と涙を拭った。
「オイラ寂しいけど……ルーシィと寝るから大丈夫!」
「それじゃ意味ねえだろ!?」
ナツが悲痛な声を上げた。