「え?」
「だ、だから……オレ、ルーシィに惚れてるかもしれねえ」
「……?」

リサーナの顔が疑問に満ちていく。

「そう思ったら、なんか……会いにくくなった」

きっとナツは必死な思いで内心を吐露している。が、リサーナは彼ではなくこちらに目を合わせてきた。口をパクパクさせる。

――『なんで今更?』

言葉を読み取るまでもなく、顔に書いてある。ミラジェーンは小さく肩を竦めて『気付いていなかったのね』と返した。

ナツがルーシィに特別な感情を持っていることは、誰が見ても明らかだった。ギルドメンバーは皆仲間、皆家族と公言する彼は、その信条ゆえに平等だった。しかしことルーシィに関しては違う。連れてきたまではたまたまかと思えたが、その後一緒に仕事へ行く、チームを組む、家に入り浸る等、それまでのナツからは考えられないほどたった一人に固執している。

尖るように立った硬い髪でさえ、今は項垂れて見えた。

「どうしよう……ルーシィ、怒ってっかな。いあ、怒ってたらマシか。泣いてたら……」
「そうだね……ルーシィは突然『あっち行け』なんて言われたわけでしょ?」
「泣いてるかな……」
「でも今のナツほどは泣いてないかも」
「ぐ」

ナツは泣いていない、とは言い張らなかった。浮かんだ涙をごしごしと拭って、鼻を鳴らす。
恋に悩む男の子ほど可愛いものはない。ミラジェーンはナツを捏ね繰り回したい衝動を堪えて、どうしたものかと視線を巡らせた。

ナツが『あっち行け』と言った相手は、実はルーシィではない。ミラジェーンだった。

昨日彼がルーシィを避けていることに気付いたので、少し驚かせてやろうと思ったのだ。ネタ晴らしした後に、何故避けるのか訊ねようと考えていた。
だが、ナツはどもった挙句に言い捨てて逃げて行き、正体を明かす暇もなかった。ついでに言うなら、どもり過ぎていて何と言ったのか聞き取れなかった。ミラジェーンは叫び声だと軽く解釈していたが、思い返してみれば確かにそう言われたような気がする。

こほん、と咳払いする。とりあえず、誤解は解かねばならない。

「ナツ、あのね……ごめんなさい」
「うん?」
「ナツが言ったの、『あっち行け』だったのね?私、なんて言ったのかわからなくて」
「……ん?」

ぱちくり、とナツが瞬きをした。少し遅れて、はっとしたように息を飲む。

「あれ、お前だったのか!?」
「そう。ナツ、すぐ走って行っちゃったから言い出せなくて。ごめんなさい」
「は……いあ、うん。良かった」

ナツが長く安堵の溜め息を吐き出す。しかし今度はリサーナがショックを受けたような顔をした。

「ええ?ナツ、ミラ姉のことルーシィと間違ったの?」
「だ、だって、変身」
「そうだけど……なんかがっかり。好きな子のことだったらどんな姿になってても見分けられるとか、ないの?」
「う……無茶言うなよ」

リサーナの言いたいことも理解できる。恋にはそのくらいの力を期待したい。それにナツは感覚の鋭敏な滅竜魔導士。ミラジェーンも、昨日彼がまんまと騙されてくれたことに驚いたくらいだ。






ミラジェーンに捏ね繰り回されるのはご褒美……でもないか。


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