ルーシィは右手を左右に振った。
「それこそもう良いわよ。気持ちはわかるし」
「うん……ありがとう」
「さあて、じゃああたしも――」
遊ぼう、と言う間もなく、身体が浮いた。
「わっ、ナツ!?」
いきなり捕まえられて、目が回った。ここまで大きいと手だかなんだかわからない。
「増員完了ー!覚悟しろ、エルザ!」
「わ、わわ、ちょ、ナツ待って!」
タオルが肩からずれる。ナツの手の中で慌ててそれを押さえると、グレイが下から疑問を投げてきた。
「おいこれ、暴走止めるんじゃねえのか?」
「あ、ごめん大丈夫!暴走してなかったの!」
「あん?」
グレイは不思議そうに首を捻ったが、ナツが驚いたような声を上げたため、視線が引っ張られるようにそちらへ動いた。
「あっ!?変形は!?」
見れば、少女の腕が元に戻っている。彼女自身も手を見下ろして目を瞬かせた。
「あれ?」
「なんだよ、戦闘形態解除か?降伏なんか認めねえぞ!」
「わわっ」
ナツは気合を入れるようにルーシィを高々と掲げた。急激な高度変化に風が吹き荒れる。
布切れに近くなったスカートが煽られている。心許ないそれにタオルの端を握り締めて、ルーシィは良いことを思い付いた。声を張り上げる。
「ねえ、ナツ!どっかの部屋に、クローゼットとかない!?」
「そんなもん食えねえぞ?」
「食うか!」
遠く眼下の家にはもう屋根はない。ルーシィはその一室を指定して下ろしてもらった。当たり前のように、少女も横に下ろされる。
「何すんだ?」
「着替えるの!こっち見ないでね!」
「何よいきなり、着替えって……」
「あんたもよ」
幸い二階にもクローゼット付きの寝室があり、中を見るとバラエティ豊かな衣装が用意されていた。何故かトラの着ぐるみまである。
「『人形遊び』、しようじゃない?」
「何をしているんだ、ルーシィ?」
ドアからエルザとハッピーが入ってくる。もちろん呼ぶつもりだったが手間が省けて、ルーシィはウィンクした。
「エルザはどれ着る?」
「ふむ」
「オイラ、これルーシィに似合うと思うよ!」
「それが何かわかって言ってるのかしら?」
ハッピーが差し出してきた赤いふんどしを元あった場所に戻すよう指示して、ルーシィは水色のドレスを手に取った。少女に当ててみる。
「良いんじゃない?着てみて!」
「なあ、オレ暇なんだけど」
「こっち見ないの!グレイと遊んでなさいよ!」
指を差した先にグレイが居た。お互いに目が丸くなる。
「オレにナツを押し付けんなよ」
「てかなんで居るの!男子は外!」
「お前らが説明もなしに着替えようとしてるからだろうが」
面倒臭そうに後ろを向いた背中が、ナツに釣り上げられる。何か喚いてはいたが意識から追いやって、ルーシィは自分用にワンピースを選び取った。パーツに分かれていない方が着替えに時間がかからない。