エルザは悔しそうな顔でナツを見上げた。

「倒せずに逃がすとは不覚」
「倒さないでくれる?」
「で、どうなってんだ?あれ、敵なのか?」

グレイはわざとだろう、ナツの頭を指さしてから、少女へと狙いを変えた。腕が長い彼女は奇怪な姿であり、ルーシィ自身危険に晒されたわけだが、

「敵っていうか……人形なんだって」
「人形?」

どうしてか敵と言い切ることは出来ず、ルーシィは両手を身体の後ろで組んだ。

「遊んで欲しかったみたい、かな」

きっと人形としての本懐を遂げれば満足する。
ナツは少女を物珍しげに見て、ことりと首を傾げた。

「人形かー。つか初めからそんなんだったか?腕伸びたような」
「はあ?良いから放してよ!」
「あっ、変形したのか!すげえ!オレもガキの頃はしたかったんだよなあ、変形!」
「せめて変身だろうが」

はあ、と溜息交じりに言って、グレイが頭を掻く。
その目の前に、ナツが少女を持ってきた。

「よっしグレイ!勝負だ!」
「ああ?」
「何!?私で何すんのよ!?」
「何って。変形すんなら闘わなきゃ損だろ」
「どういう理屈よ!?」
「変形キーック!」

ナツは助走をつけるように少女を床に数回跳ねさせてからグレイに向かってぶつけた。

「私こういうことする人形じゃないと思うんだけど!?」
「効くかよ、そんなもん!」

避けたグレイを、ナツは空いている左手で転がした。

「左手アシスト!」
「うぐっ!?」
「それいけ!腕なが人形アタック!」
「妙な技名付けないで!?」

完全に子供の遊びと化している。
微笑ましいが――と言えるかどうかは置いておくとして――ナツは少女の胴をがっしりと掴んでいて、なんだかモヤモヤする。
何か言ってやろうとは思うが、言いたいこともまとまらない。ルーシィがすっきりしない気持ち悪さを飲み下していると、ハッピーが憐れむような目を向けてきた。

「ルーシィ、ツッコミ役取られちゃったね」
「そんなのはどうでも良いって言うか楽で良いんだけど」
「私はルーシィのツッコミの方が好きだぞ。勢いもあるし切れが良い」
「いや……うん……」

エルザはフォローのつもりだろうが、褒められて嬉しいものでもない。
返答を誤魔化したルーシィに、彼女は美しい微笑みをくれた。

「何よりナツが嬉しそうだからな」
「え」

神々しささえ伴う笑みが、眩しくルーシィを浄化する。ついさっきまで心を覆っていた影が、すっと晴れるのを感じた。

「そっ、か……」

口が緩んでむずむずする。
ナツはといえば、鷲掴みにした少女をけしかけるターゲットを、グレイからエルザへと変更したらしい。少女を左右に楽しげに揺らして、じわじわと近付けてきた。






変形ロボ遊び。


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