いたずら





ラクサスと雷神衆がギルドに入ってきたとき、ルーシィはそういえばここ数日姿を見なかった、と思い出した。
彼らはマスターのところで話――おそらく仕事の報告だろう――をした後、酒場の奥のテーブルへと腰を落ち着けた。かと思えば、ビックスローだけがこちらに近付いてくる。
彼は、ルーシィの向かいでファイアパスタを啜っていたナツに声をかけた。

「よぉ、ナツ!」
「んぐ、おう、仕事だったのか?おかえり」
「ほらよ、土産だ」
「お?」

どこに隠し持っていたのか、彼はナツの目の前に大きな銀色の金ダライを差し出した。中に何が入っているのかと、ルーシィも身を乗り出して見てみたが、何もない。空だった。
ビックスローは誇らしげに胸を張った。

「これはバカには見えない水だ」
「へっ?あ……ふ、ふーん、すげえなー。あー……こんなにたくさん」
「てのは嘘だ」
「てめえ!」

見本のように引っかかったナツが、タライを奪って振り回す。ビックスローはそれをひょいひょいと避けながら宥めるように両手を前に出した。人形達は少し離れた空中でふわふわと留まっている。

「ぷっ、落ち着けよ、ぷはっ、た、たくさん……」
「その顔見て落ち着けっかよ!」
「顔はほとんど見えないけどね」

ルーシィの膝に乗っていたハッピーがテーブルに両手で掴まりながらぼやいた。だがナツの言う通り、隠れていない口元だけで十分ではある。
ビックスローはなおも笑いながら、ナツの持つタライを指差した。

「土産はそっち」
「あん?」
「軽いだろ?それ」
「言われてみれば……攻撃力なさそうだな」

タライにそんなものを求められても困る。武器じゃないんだから、と口を挟もうと思ったが、それより早くビックスローが人差し指を振った。

「あったら困るんだよ。それはイタズラ用のタライだからな」
「イタズラ用?」

ナツはタライを見下ろして動かなくなった。数秒後、口角がにやりと上がる。

「ほほー、こりゃ良いモン貰った」
「良いだろー?偶然売ってるの見かけてよ、ナツなら絶対喜ぶと思ったんだ」
「よーしハッピー、上手くやろうな!」
「あい!」
「あたしに仕掛けるわけじゃないわよね?」

返答がなかったことに不安を覚えて、ルーシィは大きく溜め息を吐いた。しばらくは頭上に注意を払う生活になりそうだ。
先日は開けるとバタバタ音が鳴る袋を、依頼報酬の取り分だと言って渡された。もちろん引っかかったところでなんという事はないのだが、ナツのイタズラ好きにはちょっとしたことでも気が抜けない。

そういえば、あれも誰かに貰ったと言っていたような気がする。

興味津々でタライをぺたぺた触っているハッピーの周りを、人形達がくるくると回っている。それを横目に、ルーシィはビックスローに訊いてみた。

「ナツにそういうのあげるのって、流行ってるの?この前も何かもらったみたいなんだけど」
「流行り?いや、知ら……ああ、たぶんあれじゃねえか。みんなナツにイタズラ仕掛けられたから、仕返しに色々仕掛けるんだよ。それをナツは自分のモノにしてんだろ」
「そのとおりだ」
「いやそんな自慢げにされても」

貰った、というのは少し語弊があったようだ。
そしてその矛先がルーシィにも向くのだから、勘弁してもらいたい。

「てか、ナツはそれを使って人にイタズラするんだから、イタチごっこじゃない」
「おー、嬢ちゃん頭良いな。言われてみればそうだ」
「イタチごっこじゃねえよ、イタズラごっこだろ」
「どや顔しても上手くないわよ」

自給自足ならぬ、他給他足のイタズラ生活。ナツはずいぶんと楽しい日々を過ごしているらしい。






このままだと世界中のイタズラグッズがナツに集まってしまう。


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