「え?」
あたし?何言ってんのかわかんな――……い!?
「そ……そそ、それって、どういう意味?」
うわ、恥ずかしいくらい上擦った!でもでも!
ナツの弱点が『あたし』って!それって、それって……!
「意味?そのまんまだ。オレはルーシィに弱ぇ」
「ひゃにゃ!?」
「ひゃ?何だって?」
もぉおおおお、なんでナツってば平静なのよ!あたし限定で弱いって、これってあれよね、告白よね?だって弱いって!
んんん、冷静になろう。あたし前にもこんな感じの勘違いしてるし!
「よ、弱いって……あ、あたし以外の子にも弱いとか言い出すんじゃ」
「いあ、ルーシィだけだ。ルーシィだけ」
はいはいはいはい、二回も言われました!
うう、熱い……どうしよう、あたし燃え尽きちゃいそう。ナツの言葉が炎の魔法みたい。耳から入って身体中焦げてく。
「弱いっつっても喧嘩なら勝てるぞ、絶対。オレは負けねえ。けど」
言いにくそうに顔を歪めて、ナツが口を開けた。でもすぐに首を振って、小さく零す。
「ずっと一緒に居るのに……それだけじゃ足りねえみてーだ」
「わ、わわ……」
今近付いてこられたら困る!心臓の音が聞こえちゃう!もしかしてもう聞こえてる?
あたしがこんないっぱいいっぱいなのに、ナツはどこかぼんやりしたみたいな目で手を伸ばしてきた。思わずびくっとしちゃったけど、イヤがってるわけじゃないのよ?そ、その、ぎゅっ、てされるのかなって、そう思っただけで。あ、それがイヤだってわけじゃなくて!
頭が混乱して酸欠状態。目も回ってきた。
ぐるぐるする視界で、ナツがあたしの頬に触れた。
「なんでなんだ」
「え……?もしかしてあんた、それわかってないの……?」
一瞬気が抜けそうになったけど、そうじゃない。だってこれって、本音ってことよね?正真正銘、裏のない、ナツの気持ちってことじゃない?
やだ。嬉しい。
「お前はわかってんのか?教えてくれ」
「え。それは……」
「頼む。ずっともやもやしてんだ」
たまぁに見せる、真剣な目。演技なんかじゃない。
笑ったり怒ったり、ナツは表情もじっとしていない。忙しく変わるその全部がナツなんだけど、この真っ直ぐな瞳にはドキッとさせられちゃう。
ああ。あたしも、ナツに弱いんだ。
「ルーシィ、教えてくれよ」
不思議。ナツの声、耳の中に残る――。
「ルーシィにだけ、乗ると酔う理由」
「それはきっとね、きっと……え?」
なんて言った?
目だけ動かして、ナツを見る。
「家族なのになあ。なんで酔うんだ」
ふうん、そう。弱いってそれ。乗り物酔いのこと。
ふうん。
手元にあった本を――ホントはこんな使い方したくないんだけど――振りかぶる。受け止めたナツの顔はかなり良い音がした。
「ぶっ!?」
「もう、知らない!」
跳ね返った本が机の上のペン立てを倒す。
ひらりと落ちてきたメモ用紙には、あたしの言いたいことが書いてあった。