ひっぱりっこ





「ぐぬぬぬぬ!」
「うがぁあああ!」

ナツとグレイがまた変な遊びを始めた。

首を伸ばしてみたが見える位置ではなかったため、ルーシィは仕方なく席を立って近付いてみた。二人はお互いに反対方向へ行こうとしているようだが、その間には紐のようなものがある。どうやらそれで繋がっているらしい。

「どういう遊びよ」
「遊びじゃねえ、真剣勝負だ!」

ナツが牙を剥く。よく見れば、紐の先に吸盤が付いていて、各々の額にくっ付いていた。恐らくそれが外れたら負けなのだろう。
いつにも増してアホらしい勝負に、ルーシィは肩を落とした。
隣に居たジュビアはキラキラと目を輝かせて「グレイ様、頑張ってー!」と応援している。かと思えば、悔しそうに歯を鳴らした。

「あんなにグレイ様に密着して」
「あんた、吸盤にまで嫉妬するの?」

ジュビアの愛は底が知れないどころか壁もない。こんなに愛されてグレイは幸せ者だ――と無理やり思うことにして、ルーシィは唸りながら床を踏み締めている彼を見やった。
その瞬間、グレイの身体が飛んだ。

「ぐあっ!」
「んがっ!いてて……」

飛んだのはナツの方もだった。それぞれ、テーブルに突っ込んでいる。

「グレイ様!」
「ちょっと二人とも、大丈夫!?」

ガタガタと這い出したナツが、皿を頭に乗せたまま右拳を掲げた。

「よっしゃあ、オレの勝ちだ!」
「くそっ!」

ナツの手には吸盤の付いた紐が握られている。グレイの額には、くっきりと赤く丸い痕が付いていた。

「所詮吸盤。根性がありません」

ジュビアが勝敗を吸盤のせいにする。彼女は続けて、グレイに向かって両手を広げた。

「ジュビアなら一生離れません!」
「ホラーだよ!」

グレイが転がっていたジョッキを蹴飛ばした。ジュビアのいつものアピールタイムは、通常ここで終了する。

その終わりを、ナツが打ち破った。

「ふうん?じゃあやってみっか?」
「あ?」
「こんなちっさい吸盤じゃなく、ジュビアでやってみろよ。それでもオレが勝つけどな!」
「ジュビアくっ付けろってのかよ!?」
「オレはルーシィくっ付けるから条件は一緒だろ」
「何勝手に決めてんの!?」

突然舞台に引っ張り上げられた自分の名前に、ルーシィはぎょっとした。しかし逃げる間もなく、手首が掴まれる。

「嘘でしょ!?」

ナツは抗議など全く目に入っていない様子で、素早くルーシィの身体に紐を巻きつけた。あれよあれよと言う間に、ジュビアと繋がれる。

「しっかり掴まれよ、ルーシィ!」
「えっと……」
「ジュビア幸せ!」
「あんまりくっ付くな!」

ジュビアを見るとすでにグレイの胴体にしがみついている。ここでやっぱり無理と言えるほど、ルーシィは空気が読めないわけではなかった。しぶしぶ、ナツの背中から腹へと腕を回す。

「良いか?」
「うん」
「こっちもいけるぞ」
「じゃあ、いっせーの」
「「でっ!」」

ナツが走り出したと感じたのはほとんど一瞬だけだった。その後はただ、ぐんっ、と身体が引っ張られる。
ルーシィは急激にかかった腕への負担を、ナツへと移すことで少しだけ軽減した。ぎゅう、としがみつく。

「く、苦しい……!」
「……んん?」

ナツが疑問符を乗せて呟いた。ゆっくりと、前進する力が弱くなっていく。

「どうしたの?」
「なんか力が入らねえ」
「え?」

ジュビアへと繋がる紐が弛む。後ろを振り返ると、グレイもナツと同様に立ち止まっていた。

「ダメだ、つい振りほどいちまう」
「グ、レ、イ、さ、まあああ!」

ジュビアは今や完全に押し退けられているにも関わらず、がっちりとグレイに抱き付いていた。凄い、と感心してから、ルーシィも自分がまだナツの背中にくっ付いたままであることに気付く。

「わっ……も、もう良いわよね?」

離れた勢いで、数歩下がる。何故かナツが目を丸くした。

「え……何?」
「ん、んん……」

ナツは歯切れ悪く言いよどんで眉を寄せたが、気を取り直したように炎を吐いた。

「やり直しだ、グレイ!やっぱ勝負はこれで決めようぜ!」

拳を見せたナツに、グレイも応じる。強引に引き剥がされたジュビアが、それでも幸せそうな顔で床に転がった。紐で繋がれたせいで、ルーシィも一緒に引き倒される。

「きゃあ!」
「グレイ様に抱き付いちゃった……ジュビア、幸せ……!」

頭上を椅子が飛んでいく。ルーシィはジュビアとグレイを見比べてから、自身の腕と手を見下ろした。ナツのぬくもりが、まだ残っている。

「もう……」

筋肉質な感触は安心感があった。
やんわりと笑みの形になろうとする口元に、ジュビアほどではないが確かに幸せを感じている自分を知る。ルーシィは熱くなった頬を隠すため、そっと手で押さえた。






2015.6.1-2015.6.30拍手お礼文。


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