ルーシィは力が抜けて、ベッドに横たわると枕に顔を突っ伏した。

「ふっ…う…」

今更ながら溢れてきた涙が、枕カバーを濡らしていく。
気持ちが、心がきりきりと絞られるようだった。
ナツにはリサーナが居る。だからもう、この部屋に入らないと、約束した。
リサーナの青い瞳。ハンカチのプレゼント。一緒に仕事。

『オレだってリサーナの方が合ってる』

考えたくないのに、ぐるぐると思考が巡る。
本当はリサーナではなく、自分を仕事に誘って欲しかった。ささやかでいい、何かプレゼントして欲しかった。
こんな風に考える自分が、嫉妬する自分が浅ましくて、ルーシィの涙は堰を切ったように溢れていく。

「…ぅ…ぅうっ…っく…」

どうしてこんなに苦しいのか。
ナツに、依存しているからだ。ナツがいないと不安で、目が、心が、探している。
でも、どうして?ナツが初めて会った妖精の尻尾の魔導士だから?初めてチームを組んだ仲間だから?
いびつに歪んだ心に呼応するように、涙の雫さえ丸くなれないまま枕に吸い込まれていく。
どのくらいそうしていたのか、

とんとん。

ドアが軽くノックされ、ルーシィはびくりと肩を震わせた。

「ルーシィ?」

かちゃり、とドアが開いてグレイが部屋に踏み込んでくる。鍵をかけずにいたことに、ルーシィは内心で舌打ちした。

「…どうした?」

グレイはベッドの端に腰掛けて、枕に顔を押し付けるルーシィにそっと声をかけた。窓が開いていて、何かが出入りしたのがわかる。それが、先ほど不機嫌な顔でギルドに戻ってきてグレイを睨みつけた奴だというくらいは想像できた。

「……」

グレイはルーシィの頭を流れる金髪に沿って撫でた。3度ほど撫でてから、肩を掴んで無理やり起こす。

「ルーシィ」
「…やっ……」

ルーシィの大きな瞳は痛々しい赤さで、端から雫がぽろぽろと流れ落ちている。その一滴をグレイは人差し指でぴっと払った。
ルーシィは払われた雫が丸く形を作るのを目で追って、淡く微笑んだ。
グレイは涙を丸くしてくれる。このとげとげした気持ちも、丸くしてくれないだろうか。
ルーシィは潤んだ瞳で願うようにグレイを見上げた。視線に射抜かれたグレイが息を飲む。
そっと目を閉じると躊躇いがちな手のひらがルーシィの頬に触れ、涙の跡を拭った。顎に移動し、瞼越しのルーシィの視界が暗くなる。
頭に警鐘が鳴り響く。

違う。これは違う。そうじゃない。

きゅ、と瞼に力を入れると、唇への感触は訪れず、代わりに肩と背中に逞しい腕が回された。

「グレイ…?」

優しく、でも力強く抱きしめられて、ルーシィはグレイの肩に頬を寄せながら目を閉じる。

「落ち着くまで、こうしててやっから」

グレイの声が胸に沁みる。ルーシィはゆっくり息を吐き出した。
ほっとしている。グレイとの関係を変えることに違和感を感じたのは、他ならぬ自分自身だ。でも。
同じくらい、残念に思っている。

あたし、魅力ないのかな。誰にも、そういう目で見てもらえないのかな。

ベッドの上で、年頃の男女が影を一つにする。
状況は艶っぽいのに心は渇いたままで。
ルーシィはまた涙を零した。




「リサーナ、仕事行こうぜ!リサーナサポート上手いからな!」
「ありがとう、ナツ!私、頑張るよ!」

喧嘩別れのようにルーシィの部屋を飛び出した翌日、ナツは上機嫌を装ってルーシィに聞こえるように声を張り上げた。
今日はギルドに居るが、一度も顔を見ていない。カウンターのルーシィは前を向いてばかりで、ちらりともナツを見なかった。
明らかに挑発しているとわかる発言にも、ルーシィは振り返らない。リサーナがリクエストボードに向かうのを視界の端に捉えながら、ナツはルーシィの背中を凝視する。

振り向けよ。こっち見ろって。

ただルーシィと話したかっただけだとナツが気付いたのは、ずっと後になってからだった。






鋼の理性、グレイ。これは据え膳じゃねぇの?
思った以上にどろどろしてきました。ミラさぁああん!!



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