「は?」
「文字なんて、どこにも……」
何言ってんだ。はっきりくっきり書いてるじゃねえか。反射して読めねえのか?いあ、ハッピーの角度から見てもきっちり読めるな。
「オイラには真っ白に見えるんだけど」
「真っ白?ほら、赤い字でここに半額って」
「……どこに?」
どういうことだ。オレには読めてハッピーには読めない?
「猫には読めないインクなんてあるのか?」
「猫お断りなの?」
しょんぼりすんな。こんな猫を差別するような本屋、オレがぶっ潰してやる!
どこの店だ。えーと……んん?公園?移動本屋って書いてる。
「おい!」
「あん?げっ」
さっきの本屋のおっちゃんじゃねえか。なんだよ、追いかけてきたのかよ。しつけーな。
「これ、請求書だからな。ちゃんと渡したからな」
「うぐ……」
押し付けられた紙にはゼロが並んでやがった。うあー、ルーシィ見付けたら仕事行かねえと。
ポケットに突っ込んだ拍子に、服の裾が看板に当たった。そうだこれ、おっちゃんなら何か知ってるかもな。
「なあ、おっちゃん。この移動本屋ってよ」
「ん?なんだこの白い看板。いつからこんなのあったんだ」
「へ」
「じゃあな、来月までには払えよ!」
おっちゃんはぶつぶつ言いながら戻ってった。知らないならともかく、読めないってことは、だ。
「どういうことだ?あのおっちゃん、猫だったのか?」
「うーん」
ハッピーは「こういうの、いつもならルーシィが解析してくれるのに」ってぼやきながら、看板の匂いを嗅いだ。
「もしかして、ある程度魔力のある人間しか読めないんじゃないかな?」
「……なんのために?」
「さあ」
イヤな予感が強くなる。これじゃまるで。
魔導士をおびき寄せてるみてぇじゃねーか。
「ハッピー。オレはルーシィを追うから、お前ギルドに戻って他の奴らにこれ知らせろ」
「あい?」
「ルーシィに何かあったんだ」
「そうかなあ」
ハッピーはまだ危機感がねえのか、のんびりしてる。この看板の異常さがわかんねえのか。
「あ、これ持ってけ。その方が話早ぇだろ」
看板は大した固定もされてなかったし、ちょっと動かしただけで簡単に引っこ抜けた。それを抱えて、ハッピーが叫んでくる。
「もう物壊しちゃダメだよ!」
約束はできねえな。ルーシィを泣かしてたら予定どおりぶっ潰す。
飛んでったハッピーはなんか逆に本屋の宣伝してるみてえだったけど、まあ大丈夫だろ。
「待ってろ、ルーシィ。今行くからな!」
オレは看板に書かれてた公園に走った。あ、こんなとこにも看板ある。燃やしちまおう。
「いったい何枚あんだよ、くそっ」
オレが教えなくても、きっとルーシィは引っかかってた。そうなってたら、オレはルーシィがどこに行ったのかもわからなかったんだ。
でも、今はわかる。早く助けに行かねえと。
変に焦って、足が縺れる。やっとたどり着いた公園には、入り口にでっかい魔導四輪が停まってた。窓もねえし、めっちゃくちゃ怪しい。
「ルーシィ!」
くそ、頑丈だな。この勢いで蹴ったんだから穴が開いて、そっからルーシィが出てくると思ったんだけど。魔導四輪が倒れちまった。
中から悲鳴が聞こえる。って、そうだ、ルーシィ!
「ルーシィ!大丈夫か!」
今度こそ、魔導四輪の腹をぶち破る。中には布だの本だの物がたくさんぐちゃぐちゃに入ってて、金髪が半分埋もれてた。
――泣いてる。