「うん、美味い」
「あはは、インスタントですー」
「ルーシィが淹れたコーヒーだからな」
「心して飲んでよ」

ぱちり、とウインクまで付けてやると、部屋の空気が穏やかになった気がした。
グレイは慣れているのか女性の扱いが上手い。ルーシィと年は一つしか違わないはずだが、その空気は少し色気を含んでいる気さえする。
ルーシィはカップを持ち上げ、コーヒーの香りを肺に満たした。
ここ最近で、一番落ち着いているようだった。

「そろそろ家賃危ねぇんじゃねぇの?」
「ん…」

グレイの言葉に財布の残高を思い出す。
仕事に行かなければならない。それは当然、あのチームで。ナツと一緒で。
考えが繋がった途端、気分がまた海底に沈んだ。
腐敗ガスを溜めてゆるゆると浮上するそれは、ガスを海上に出すとまた自身の重みで沈んでいく。
ルーシィは瞼を下ろして溜息を吐き出した。浮き沈みする心を持て余して、カップの縁をくるりとなぞる。

「仕事行くか?二人で」
「え?」

グレイがルーシィを見つめている。その漆黒の瞳を見つめ返すと、なんでもないことのように言葉を繋げた。

「必ずしもチームで行かなきゃなんねぇわけじゃねぇよ。ナツの野郎だって、ハッピーと二人で行ったろ」

ルーシィは昼間の出来事を思い出した。
ナツ。仕事。リサーナにお土産。
きり、と唇を噛んでから、ルーシィは顔を上げた。

「そうね。二人で行きましょ」




「ルーシィは?」

カウンター内のミラに、ナツは尋ねる。
昨日は結局話す機会すら得られなかった。
最近、ルーシィとはすれ違ってばかりで、ツッコミ不在のボケかぶせにも飽き飽きしている。
話さない時間が長くなればなるほど声をかけにくくなり、何か話題を、口実を、と思ってハッピーのついでに買ってきたタオルハンカチは、結局本来の目的とは違う相手に渡ってしまった。

「仕事行ったわよ」

ほよよんと穏やかな笑顔を向けるミラの言葉に、衝撃を受けて固まった。

「え?一人で?」

ルーシィがナツに黙って仕事に行くなんて初めてだった。この前ナツがハッピーと二人だけで仕事に行ったことを怒ったのだろうか。
お土産買ってきたのに。渡せなかったけど。
眉間に皺を寄せるナツに、更なる衝撃が降りかかる。

「ううん。グレイと、よ」
「…え?」

おかしくはない。グレイは同じチームだ。いや、チーム外で仕事に行くことだって、よくあることだろう。
ナツの脳内に、グレイとルーシィが同じ列車の中で仲良く過ごしている様子が浮かぶ。
いや、待てよ。グレイだったら魔導二輪の可能性も…。
グレイの腰にしがみつくルーシィを想像して、ナツはぶんぶんと頭を振って追い払う。
ミラはナツの様子を伺うように黙ったままだった。

「ナツ!」

明るい声に振り返ると、リサーナが紙をひらひらとさせながら、ナツに向かって小走りにやってきた。

「仕事行こうよ!これ、ナツ向きでしょ?」

言って見せてくる依頼書は、確かに破壊OKなんでもありの討伐系で敵の強さも報酬も申し分ない。何よりこの嫌な気分を吹き飛ばすには、暴れるに限る。
ルーシィがグレイと仕事行ったんだから、オレだって誰と行こうが関係ねぇよな。
ナツは大きく頷いて笑った。

「おう!いいな、これ!ハッピー、仕事行くぞー!」
「あいさー!」

ウェンディの居るテーブルから、元気良く相棒の声が返った。
リサーナは後ろで手を組んで、その様子をにこにこと見守る。

「オレ荷物取ってくる!」
「じゃあ、30分後に駅前に集合ね!」
「15分だ!」
「あはは、わかったー」

待ちきれないように走り出すナツとハッピーに手を振って、リサーナはミラに向き直る。

「ありがと、ミラ姉。ミラ姉がナツ好みの仕事、教えてくれたからだよ」
「ふふ、ナツだもの。リサーナから仕事に誘われて断るはずないわよ」

リサーナが頬を染めてからかわないでよ、と言うのを見て、ミラは満足そうに微笑んだ。






ミラの思惑通りですな。


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